《タイお茶散歩 2006》メーサローン(3)

(5)メーサローンの街

午後3時頃になると、雨も小雨となる。この山間に街があると思えないが、ホテルの前の道路を歩いて見る。実は靴下がなくなっていた。いつもは自分で洗濯するのだが、先日風呂に入りながらパンツを洗っていると、指がふやけて皮が剥けてしまった。洗うことはできるが、絞ることは出来ない状態だ。

ホテルの直ぐ脇に雑貨屋があった。村の万屋といった雰囲気だ。中に入って『靴下』と北京語を使うと何の違和感もなく、靴下が出てきた。但しその質はお世辞にも良いとはいえない。中国製だろうか(タイ語が読めないので)??歯磨き粉も買う。

更に歩いて行くと平屋の家が両側に並ぶ。数軒お茶屋さんが店を開いている。急須の形の窓がある。芙蓉宮、どこかで見た名前だと思ったら、チェンライの空港で最初にお茶を飲ませてくれた店である。茶杯を並べてモニュメントを作ったり、それなりに工夫している。しかし雨のせいもあり、人も歩いておらず寂しい風景には違いない。

セブンイレブンがある。こんな所にもある。入ってみたが、買いたいものはない。やはりこの村にはあまり似合わない。更に行くとアカ族の民宿がある。何故アカ族とわかるかというと、何と塀に日本語で書かれているからである。誰が書いたのだろうか??

国民党残党の村、といった面影は感じられないが、台湾が寄付して作られた道路がある。恵安路、蒋家塞十一村へ向かっている。蒋家塞とは、確かビルマから撤退した国民党軍が13に地域に分かれて作った村ではないか??その第十一村がこの近くにあるということか??

そちらの方へ歩いて行くと傘を差した小学生低学年と思われる女の子が二人歩いてきた。学校の帰りだろう。するといきなり『何処行くの??』と北京語で話し掛けて来るではないか。やはりこの村はタイではないのだ。

私は『メーサローンリゾートホテル』と言いたかったが、北京語が分からず、ただ『ホテル(酒店、飯店)』と言ってみたが、通じない。どうやらここで使われている北京語はかなり昔のそれであるようだ。取り残された村なのだろうか??

(6)メーサローンリゾート

軽い登りの道を進むとメーサローンリゾートの入口に到着した。リゾートと言うだけにここも花園の手入れが行き届いている。しかしここからゲートまで数分歩かなくてはならない。広大な敷地である。右手に高床式のコテージがいくつも見えて来た。なかなか洒落た建物に見えるが、かなり古びている。

中に入ると広い庭園がある。その周りには更に大きいコテージがある。しかし人の気配はまるでない。一体ここは何なのだ??資料館がある。殆ど何もないが、ここが国民党軍の軍事訓練所であったことが分かる。そして70年代この訓練所をホテルの替えたのが、当時の雷将軍だったと言う。将軍がホテル経営??既に戦闘はなくなっていたのだろう。しかしそこまで追い込まれていたのだろうか??8年前に雷将軍を取材した読売新聞の記事が貼られていた。このホテルが作られた経緯の筋が書かれていたが、雷将軍は『過去の事は語りたくない』としている。この数十年、彼らは一体何をしていたのだろうか??

1969年の防御作戦現場跡があった。コテージを越えて、斜面へ。メーサローンの街が一望できる。斜面の草むらを下るとそこには溝があった。これが防御線??うーん、確かに急な斜面を下から登っている敵にとってこの溝は効果があるかも知れない。上から攻撃すれば相手は逃げるかもしれない。しかし作戦と言うには程遠いこの溝を見て、更に国民党残党の困難を感じる。

ホテルのフロントに行って見たが、電気は消えていた。暗い中からオバサンが出てきたが、どう見てもやる気がない。料金を聞くと『300バーツ』とぶっきらぼうに答える。ホテルのパンフレットを貰って退散する。ここに泊るのは相当変わり者の観光客だろうか??

ホテルの直ぐ近くまで戻ると製茶工場があった。ちょっと見学させてもらったが、誰も相手にしてくれない。北京語などをなまじ使うと、お客さん扱いされないようだ。数人の男性が実に真剣に話し合っていた。そして茶葉を乾燥させていた。一体何を話しているのか??言葉は北京語ではない。しかし中国系、どうなっているのか??

(7)夕食

小雨の中をホテルに戻る。午後5時で少し暗くなる。するとどやどやと観光客の一団が30人ほど入ってきて席に着いた。台湾人だ。台湾語を話している。子供もいる。夏休みの旅行らしい。6つぐらいのテーブルを占拠、あっと言う間に料理が並び、あっと言う間に食べ、そしてあっと思う間に出て行ってしまった。女主人に聞くと、彼らはこれからチェンマイまでバスに揺られて行くらしい。きついスケジュールの団体旅行では、ここメーサローンに泊る余裕はない。逆に食事代を浮かせるためにここで安い夕食を食べて行く。

あまりの慌しさに『旅行楽しい』と聞いてみたくなる。いや、結構楽しいのだろう。彼らは実に元気だ。食べて話して。久しぶりに台湾人パワーに圧倒された。台湾駐在時代に友人が台湾人のツアーに入ってタイ旅行をした話を聞いたことがあるのを思い出す。スケジュールがきつくて死にそうだったが、一緒に旅行した人々とは台湾に戻ってからも付き合いが続いたと言う。楽しかったから。

しかし折角お茶があるのに殆ど人は見向きもしない。中にお茶好きがいて眺めていたが、彼らは台湾のお茶が一番だと思っているので試飲する人もいない。いや、ゆっくりお茶を飲む時間もないのである。30分後には元の静寂が戻った。嵐のような時間が過ぎた。

さて、私の夕食はどうしようか??女主人は『ここの麺は美味しいよ』を勧めてくれた。最近食べ過ぎの私は夕食にタイ風焼きそばのみを食べることにした。ここの麺も確かに美味しい。具の野菜が非常に新鮮だ。お茶を飲みながらゆっくり食べた。消化に非常に良い食べ方だ。

部屋の前まで戻るとちょうど夜の帳が下りるところ。籐の椅子に座って暫し眺める。実にゆったりとした時間を過ごす。もし夕陽があればどんなに良いだろうか??庭には大きなラッパ水仙??の花が下向きに咲いている。これが暗さの中で際立って映える。電灯のライトアップもきれいだ。真っ暗になるまで席に座って過ごす。

シャワーはお湯がぬるかった。そして暗くなったホテルの部屋の中は涼しかった。結局シャワーを浴びなかった。後で聞いたら湯船のある部屋もいくつかあるらしい。ここではシャワーより湯船だ。何となく山小屋で寝るようなイメージであっと言う間に寝入る。

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