シベリア鉄道で茶旅する2016(5)エレンホトの車輪付け替え

張家口は万里茶路の重要拠点の1つでもあり、駱駝に載せられた茶葉がここからモンゴル高原へ出て行った場所。万里の長城の出口でもあり、やはりここは訪れたかったが仕方がない。今回は何もせずに、通り過ぎた。何とも残念だが、先は長い。やることがないので、S氏がプリントしてきた今回の旅に関連した資料を見せてもらった。私は事前の予習をしないのだが、S氏はちゃんと関連資料を探していた。私が全く知らない世界、歴史がそこに語られており、実に面白く読んだ。明治中期に茶商隊と一緒にシベリアを旅した日本人、玉井喜作という人物がいたとか、ロシアは陸だけでなく、義勇艦隊という名の船団が、海からも茶葉を運ぼうとしたことなど、今後の茶旅に大いに刺激を与える内容だった。歴史はまだまだ知らないことだらけだ。

 

また恵比寿のフレンチレストランでクスミティーを買ったと言って見せてくれた。このお茶は元々サンクトペテルブルクで1867年に創業し、皇帝たちに愛された、という話だから、まさに万里茶路における、ロシアによる中国漢口あたりからの直接買い付けに関連しているように思う。その後革命により本店をパリに移転して、今は世界的なブランドになっている。サンクトに行けば、その名残は見つかるのだろうか。フレーバーティなので、飲むのは遠慮した。何と今回は煎茶のティバッグを持参している。

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6時間後に集寧南(ウランザップ?)に停車した。ここは既に内モンゴル自治区。モンゴル文字が見えてきて、気分は高まる。外はまだまだ夕暮れには程遠い明るさだったが、日が徐々に落ちていく。食事の時間がやってきたとばかり、食堂車に乗り込む。夕陽を見ながらの食堂車、シベリア鉄道らしい。車掌が何人かで食べているが、ほかに客はいない。国際列車の食堂車だからかなり値段が張るのではないか、との不安をよそに、ニンニク炒め、西紅西炒鶏蛋が各30元、長城ワイン白35元と驚くほど、リーズナブルな料金だった。いまどき北京なら街の食堂でももっと高いのではないだろうか。どうしてこんな値段でやっているのか、料金改定をしないのか、疑問は残るがまずはうれしい。モリモリ食べる。

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エレンホトの国境越え

部屋に戻って暗くなった窓の外を見ているとウトウトしてしまった。そして午後10時前、列車はガタッという音を発して停まった。そこが中国とモンゴルの国境、エレンホトの駅だった。どうしたらいいのかと座っていると、いきなりイミグレ職員が列車に乗り込んできて、パスポートを回収して去って行った。これはかなり不安だったが、S氏が『大体こういうものです』というので、静かに見送った。車掌は何の指示もしなかったので、何となく列車を降りて、待合室を探す。だが建物はあるものの、ビルの中は閑散としており、椅子はあったが、ほぼ何もなかった。ここで乗り降りする人もいない(国内線の乗客は別途降りて行ったらしい)。どうなっているんだ。ここで3時間も時間をつぶすのか。ホームの端には警備の武装警察がぴちっと立っている。

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他の白人たちの姿はない。するとNさんが『皆列車に乗ったままだ。車輪の付け替え作業が見られるかもしれない』というので、急いで車内に戻る。すぐに列車は動き出し車庫へ向かった。車庫に入ると横にももう1台の車両が現れた。連結を外して、2列にしたのだ。その内、知らぬ間に自分の車両が上がっているのが、横の車両との比較でわかる。我々の車両を持ち上げ、下を外し、一斉に車輪を、いや台車を取り替えている。これは効率がよく、何とも豪快な作業だった。鉄道ファンにとってはたまらない光景ではないだろうか。モンゴルに入るとレールの軌道が変わるため、このような作業が必要になる。替え終った後の点検は実に入念だった。どこかが外れでもしたら大変だ。

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確か30年前、内モンゴルとロシアの国境、満州里で、この交換風景も見た記憶があるが、その時は車両を上からクレーンの様なもので、持ち上げていたように思う。作業員はかなりの寒さの中、皆真剣そのものだ。隣の線路にある残り半分も同じ要領で作業された。線路もここは二つの軌道になっている。約2時間かかって作業は終了し、列車は元へ戻った。なんだかワクワクする、楽しい見学だった。列車は日付が変わった午前1時前、エレンホトを出発した。勿論パスポートには出国のハンコが押されて戻ってきた。一安心だった。

 

しかし3時間も待ち時間があれば、ちょっとでよいからエレンホトの駅を出て、街を見てみたかった。遠くに明るい光が見えていた。あれば今のエレンホトの街なのだ。中国らしく、やはり国境の街はこけおどし的にも、立派な建物を建てている。夜中だというのに明るいのはどう見ても不自然だから、これが対外宣伝であることはすぐにわかった。

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