さしま茶旅2016(3)日本一入りにくいお茶屋さん

郷土館

木村さんの家でお茶を飲みながら話していると、日がきれいに落ちて行った。本当に一日が短い。吉田さんからはさしま茶に関するイベント資料をお借りしており、今日の目的は一応果たされていたのだが、まだ何かあるかもしれないということで、さしま郷土館に連れて行ってもらった。

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日本で様々な地方都市を訪れる機会があるが、どこへ行っても図書館や役所は立派である。これは箱モノ行政の産物かもしれないが、もし実際に活用できるのであれば、とても素晴らしい環境がそこにはある。東京のように込み合っていることもなく、借りたい物は比較的容易に借りられる。こんな環境は実に羨ましい。さしま郷土館もきれいで広々としており、蔵書もかなりある。こんな多くの中から、必要な本を探すのは大変だな、と思うほどである。

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私が調べている『江戸時代のさしま茶』についても、郷土館の方と吉田さん、木村さんも熱心に探してくれて、いくつかの関連資料が見つかった。やはり江戸末期まで、この地では主に番茶が作られていたとある。この商品を利根川の水運を利用して運んだようだ。関宿藩が奨励していた、という事実もある。年貢もかなり収めていたようだから、それなりの利益もあったと思われる。

 

やはり江戸は巨大市場だったのだろうか。そして幕末になってどうして、海外輸出に力を入れ始めたのか。幕藩体制の崩壊が関宿藩にもたらした影響とはどんなものだったのだろうか。これは単に茶の歴史ということではなく、むしろ郷土史として、知っておいてもよいのではないかと思われる。事実を羅列するだけではなく、その背景を教えてくれる書物に出会いたい。

 

日本一入りにくい長野園

それからまた車に乗り、農地の脇の道を行く。すると川が見えてきた。いや実際には暗くて見えなかったのだが、横に川があるのは分かった。そしてその川の向こうに城が見えてきた。それは私が奥さんの両親の墓参りに行く時見ていた、関宿城だったのだ。そこでは数年前にさしま茶に関する展示会も開催され、その時に作られた資料が手元に渡されていた。一度はこの城、いや博物館にも行ってみたいと思うが、今日は勿論閉館しており、次回を待つほかはない。

 

どこへ行くのかな、と思っていると、暗闇の中、すごく立派な門構え、石垣が見えてきた。そして何と車はその門を潜った。ここはきっと江戸時代の庄屋の家だったに違いない。しかしなぜここに来たのだろうか。吉田さんが『ここにお茶屋があります』と言っても俄かには信じられない。

 

しかし玄関の横には確かに店舗があった。長野園という。HPによれば『日本一入りにくいお茶屋』だそうだ。確かに知らない人は入ってこれない筈だ。茶園管理責任者と言う肩書を持つ花水さんは、以前は商社の食品部門に勤めていたそうで、結婚により奥さんの実家である創業70年になる茶業に入った人だという。このお屋敷に小さな販売店舗を作ってはいるが、住まいは別らしい。

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花水さんと話していると、共感できることがすごく多かった。これは初めからお茶の生産者だったり、流通をしていた問屋さんではなく、別業種からこちらに入ってきた人が持つ素朴な疑問などが共有できるからかもしれない。だが彼はその素朴な疑問をちゃんと商品化して、従来は出てこなかった発想で、お茶作りを志向している。その行動力が素晴らしい。

 

例えば、在来種を使った和紅茶、そしてこれを洋菓子とコラボして原料にも使うなどは、私がいつも思っていたことだった。『日本茶と洋菓子は合うはずだ。日本の洋菓子は世界レベル』という概念。そして何より驚いたのは、『独自のほうじ茶を作った』ことだ。日本茶に香りがない、という私の素直な疑問、彼はほうじ茶を燻製してしまっていた。ちょうど朝の連ドラ『マッサン』でウイスキーの命はスモーキーフレーバーだ、と連呼していたのだが、まさにお茶をスモーキーにしてしまった。

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これは紅茶、ラプサンスーチョンが好きなイギリス人にウケるだろうか。それはまだわからないが、既に大手の百貨店から引き合いが来ているという。『これからのターゲットは大人の男だ』という点で十分に面白いとおじさんが感じる商品設定だった。商社で培った流通ルートなども大変参考になっていることだろう。従来の茶問屋による流通ではなく、新たな商品を新たなルートで流していく、これは将来の日本茶を面白くする試みであると言える。これからの活動が大いに注目される。

 

話し込んでいると遅くなってしまい、いずみ紅茶の吉田さん、烏龍茶の木村さん、スモーキーフレーバーの花水さんと夕飯を共にして、ご馳走にまでなってしまった。皆さん、個性的で独創的、更には勉強熱心で、今月末には静岡から和紅茶生産の第一人者村松二六さんを招いて研修会があると聞いた。

 

話していて全く飽きない、何とも楽しい夜だった。正直さしまへの認識は薄かったのだが、今回の訪問で、認識を完全に新たにした。またぜひ来よう!帰りの湘南新宿ラインで、あれこれ考えているとあっという間に新宿まで戻ってきた。やはり近いのだ、そして楽しいのだ、さしまは。

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