北限のお茶を訪ねて2015(7)徒歩で往復した小木から宿根木

10月18日(日)

小木へ

今朝は朝から島の南の方、小木へ向かう。バスが限られているので、8:25発に乗るため、佐和田BSへ。中で待っていると、バスがやってきたが、何とそれは違うところへ行くバスだった。運転手が『今あっちから出て行くよ』というので、慌てて動き出したバスを停めて乗り込む。危ない、もし乗り損なうと1時間は来ないバスだった。このバスには数人の人が乗っていた。今日は日曜日だが、観光ではなく、地元の老人の移動が殆どだった。

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バスは佐渡の歴史的な場所、真野新町を経由して、1時間ほどで小木の港へ。ここは本当に静かで何もない感じ。Yさんから『必ず宿根木へ行って』と言われていたので、行くことに。ところが宿根木行きのバスは1日僅か2本、最初の便は12:25発だった。今はまだ9時半、3時間は長い。バスで小木から宿根木まで15分。これなら歩いて行けるだろうと歩き出す。

 

街は小さいが商店はある。かどや、という老舗旅館跡があった。尾崎紅葉が泊り、長塚節の旅行記にも出てくるという。大正まではあったが植木屋に転職したというのが面白い。お茶と書いてある店もあり、寄ってみたが『佐渡番茶』はなかった。佐渡では京都の煎茶などが飲まれており、番茶はとうの昔に廃れていた。最近復活したと聞いたのだが。お茶屋のおばさんは、そんなものがあるかという感じで『JAならあるかも』というだけ。港近くのJA販売所へ行ったが、『金井ならあるかも』とJA支社がある場所を口にした。残念ながら佐渡番茶は観光客の土産物として細々と売られており、地元には馴染んでいない。

 

宿根木を目指して歩く。小木の街外れに由緒正しそうな神社があった。そこからは街道沿いに歩いていく。1㎞ぐらい行くと、これもまたYさんから『海がきれいだ』と聞いていた、矢島経島という看板が見えてきた。まずはこちらへ曲がる。少し行くとお寺がある。何気なく覗くと、御所桜という文字が。佐渡に流された順徳上皇が都から取り寄せて植えた、と伝えられる桜。佐渡には配流地としての歴史もある。

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お寺から海を下りていく。そこには確かにいい景色が待っていた。たらい船が見えたが、観光客はおらず、係員すらいない。この景色を独占できるのならそれは素晴らしい。矢島と経島は赤い橋で繋がっている小さな島。矢島は矢を作る竹の産地、経島はやはり配流された日蓮の放免状を携えた高弟の日朗が途中嵐にあい、漂着した島、とされている。

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本日も天気がとても良く、そして水は澄んでいる。小木から小型船のクルーズ客がここまで来て、橋を潜っていく。島を後にしてまた国道に戻ろうとしたが、上り坂はきつい。何とか這い上がり、そこから3㎞、歩いていく。車の時々通るのみ。柿が植えられた畑が見える。田んぼの刈り取りも終わっており、如何にも秋の田舎の風景が広がっている。

 

宿根木から琴浦へ

宿根木は元々佐渡金山の繁栄期、江戸初期の廻船業の集落。江戸時代後期から明治初期にかけて全盛期を迎えた北前船の寄港地として発展した港町。その入り口には北前船が展示されている民族博物館が作られていた。レトロな郵便局、それから十王坂という坂を下って行くと、古めかしい町並みが視界に入る。ここは歴史保存地区。北前船は明治中期頃まで盛んであったが、輸送手段が鉄道にシフトすると姿を消し、宿根木も静かになっていく。街中には、北前船で財を成した船主などの家が残されており、船大工たちが造った建造物が密集している。舟板を利用した家、舟形の家、新日本紀行でも紹介された面白い飾りが軒下のある家など、100軒以上が保存されている。日曜日だが観光客は殆どなく、ひっそり。

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観光案内所があったので聞いてみると、『最近は人口も減り、バスの本数も減った』という。いい観光資源を持っているのに、何しろ不便。車で行ける人はぜひ行ってみるとよい。案内所の若者は『帰りも歩くのであれば、琴浦まで海辺の遊歩道があります。非常に自然が豊かなのでお勧めです』と笑顔で言われたので、従って行ってみる。

 

ちょっと行くと、前が岩で塞がれており、どうしてよいか分からない。遊歩道はどこだろうか。仕方なく岩に開いている穴(手で掘られたトンネル)を潜ってみた。向こうには月面のクレーターのようなうねりが見えた。進むと途中で道がなくなり、岩を飛び越えて行かなければならない。波の浸食と大地の隆起によってできた台のような地形は、「隆起波食台」と呼ぶらしい。これはもう私が思う遊歩道ではない。完全なアドベンチャーだ。

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確かに景色は素晴らしい。水も透き通っている。釣りをしている人がいたので声を掛けると『タコを採っている』という。釣竿を持っている人をあと二人見掛けたが、それ以外は誰もいない。ほぼ無人島に来た気分になる。途中に表示があったのだが、方向が少し間違っており、その表示通り進むと、何と崖を登らなければならず、何とか這い上がると降りる道はなかった。木や草をかき分け、道を見つけ降りていく。もうサバイバルレース並だ。

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結局石切り場を経由して、何とか琴浦の浜にたどり着く。これは本当に体力を消耗した。この場所は、研究者は大喜びだろうが、一般人がちょっと歩くには少し厳しいと思う。琴浦はダイビングスポットらしいが、今はお客もなく、老人が日向ぼっこしていた。そしてまた急な坂を上がり、国道へ戻る。ここで完全に体力は尽きた。後は気力で、小木を目指す。

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小木でランチ

12時過ぎにようやく小木に戻ってきた。ちょっと待てばバスでも戻れたはずだが、その間の体験はバスの15分には代えがたい。往復10㎞近く、岩を越える、急な坂を上がるなど、相当にきつかった。腹も当然減る。ランチは創業200年の七右衛門へ行くようにと言われていた。道を歩いている人も殆どなく、果たして蕎麦屋がやっているのかと疑念が湧く。

 

メインの通りを歩いていく。その店がある場所も知らず、開いている店あまりもなく、不安が募る。すると突然目の前にその店が。明治期に建てられた、さり気ない店構え。暖簾がかかっていたのでホッとして中へ入る。お客が一組いた。おばさんが『いくつ?』と聞いてくる。この店にはメニューはない。商品はざるそばだけ。取り敢えず2つ頼んでみた。

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そばとねぎが載った小ぶりのどんぶりが出てくる。汁は河童のマーク。麺は石臼でひくとか。非常にいい感じ。汁はあご出。最近ハマっておりとても喜ばしい。これは確かに癖になる味だ。いつの間にかお客さんがどんどん入って来て、満員になる。地元のおじさんたちも食べている。老夫婦がやっているため、もうすぐ閉店してしまうのではないか、との噂もあるという。このような店はぜひ残って欲しいと思うが、後継者はいないのだろうか。

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