梅ヶ島茶旅2015(5)梅ヶ島を思う人々

梅ヶ島を思う人々

SさんとHさん、そして私の3人は、再び昨晩宿泊した古民家へ戻った。そこでKさんたちとしばし歓談した。昨晩の鹿肉ソーセージが美味しかったと話すと、また焼いて出してくれた。KさんやOさんもこれから東京へ引き上げるので、残さず食べようということだ。またこの地域の活性化を如何に進めるかという話になる。今日も実際に見た通り、いい自然資源を持っており、利用できそうな土地もあるこの街だが、それを評価しているのは外から来た人々だけ。

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地元の人はそこのところになかなか気が付かず、また気が付いてもそれらが生かされていないのが残念だと皆がいう。だが地元の人が主体的に動かず、外から来た人だけがイベントを仕掛けたり、勝手に何かを夢想してみても、決してうまくは行かないことは、誰もが分かっていることだろう。ただ狭い社会での物事の運び方、歴史的、人的な様々なしがらみや固定概念など、簡単に解決できない問題も多く、地元民だけでは動きにくい面もある。日本の地方で最近よく聞く話である。

 

それから急遽、お茶農家を一軒訪問した。この辺りでも高齢化が進み、お茶農家は少しずつ辞めていき、数が減ってきているという。訪ねた農家では従来から作っている煎茶に加えて、紅茶栽培にも力を入れていた。やぶきた以外にも紅茶品種を植え、本気で美味しい紅茶作りを目指している。茶畑管理もかなり入念に行っているとのことで、よい茶を作ろうとする前向きな姿勢が良かった。後はいいお茶を作っても上手く売れるか、という問題かもしれない。

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Sさんの別荘に行く。彼女はご主人の関係で海外暮らしが長く、今はドバイと日本を行き来している。18年前にこの別荘を買い、1年のうち、2₋3か月はここにきて過ごしている。彼女とお茶の出会いも、まずはこの土地が気にいったところから始まったという。家の前には茶畑が広がっている。

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この家のすぐ近くに、昨晩囲炉裏の食事会で私の横に座っていた夫婦の別荘があるというので、そこへもお邪魔する。普段は静岡市内に住み、週末だけここへやってくる。彼らは何と、鹿肉を使って、鹿肉のハンバーガーを作っていた。これを食べさせてもらったが、さっぱりして実にうまい。これは商売になるほど質が高いと思う。今は知り合いに分けているだけだが、秋に行われる地元のイベントに出品するつもりだという。ただ鹿肉は沢山確保できるものの、バーガーの数量を作るのは大変らしい。既にこの別荘に通って10数年。地元の良い物を使っていこう、他の人にも知らせていこう、いや伝えたいという意識は地元民よりむしろ高い。

 

そして何と、この別荘は4年の歳月をかけて、自らの手で、梅ヶ島の木材を使って建てたというから驚きだった。更には別荘の一室に、地元の木材を使った癒しの空間まで作っていた。はめ込み式の材料を地元企業に加工してもらい、誰でも簡単にできるように工夫したという。この部屋に入ると、木の香りがして、確かに何とも言えない心地よさがあった。『マンションの一部屋だけ、この木材を使えばいいんです。費用もそれほど高くはない。あなたの家に梅ヶ島を』というキャッチフレーズに売りだしたらどうかと真剣に考えている。地元の主要産業である林業の活性化にも役立ちたいという。いい感じであり、東京のマンションの一室を林に替える、悪くない発想ではないだろうか。こんな部屋で暮らしてみたい。

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今晩はSさん宅に泊まる予定だったが、Hさんが急遽東京に戻りたいと言い出した。私は流れに任せる。ところが車を運転する予定のSさんは2日間のツアーで疲れ果て、持ち帰る荷物の整理もままならない。このまま運転しても返って危険ではないか、ということで、1時間ほど仮眠をとった。私は免許証を持ってはいるが、30年間一度も運転したことがないので、申し訳ないが、運転を替われない。そして午後8時に大きな荷物を車に詰め込み、出発。

 

当初は『運転できない』と言っていたHさんがハンドルを握った。え、大丈夫かと思ったが、全く問題なく、暗い山の夜道を川沿いに軽快に進み、静岡の高速道路のインターチェンジまで無事にたどり着いた。Hさんは普段東京では運転しないのだが、今後は田舎暮らしを検討しており、実は運転は堅実で上手だった。こんな意外性もまた面白い。それにしても昨日のバスは梅ヶ島まで1時間半かかったが、今日は1時間弱で戻る。車なら早いことを実感。

 

それからはSさんが高速を快適に運転してくれ、懸念された渋滞に引っかかることもなく、3時間で東京に着いた。夜中に自宅に戻ると、家族が『あれ?』という顔をしたが、誰も何も言わなかった。いつものことなので、『また気まぐれな旅をして』と思われただけだった。今回は茶旅として行ったつもりだったが、色々な要素が絡み合い、実にユニークな旅となった。気まぐれな旅が出来る幸せ、を噛みしめよう!

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