梅ヶ島茶旅2015(4)天空の茶畑

天空の茶畑

そしてついに天空の茶畑へ向かう。車に乗って山道を登って行くと、所々に茶畑がかすかに見える。かなり急な斜面に茶畑が作られており、何でこんなところに、と不思議に思う。駐車場がないため、茶畑の下の道路に車を停めて、歩いて登るとその坂の急な様子がよく分かる。そこには一軒の農家があり、その裏をさらに上ると茶畑に到達した。そしてそこには何と『日本一高い茶畑 海抜1000メートル』と書かれているではないか。えー、僅か海抜1000m程度で日本一高い場所にあるとはどういうことか、俄かにはとても信じられない。

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これまでアジアの茶畑を色々と巡ってきたが、標高1000m以上の茶畑はどこにでも見られた。台湾では高山茶の定義が『海抜1000m以上の茶畑』と言われているぐらいだ。私が訪ねた一番高い茶畑は標高2500mを越える梨山というところだった。インドの南部でもアドベンチャー旅行をして、この凄いアップダウンの末、標高2160mの紅茶畑に行った記憶がある。日本には本当に1000mを越える茶畑は1つもないのだろうか。緑茶栽培なので、高いところはむしろ弊害が多いということだろうか。標高が高ければよいということでは決してないが、ただ驚くしかない。

 

その茶畑は斜面の狭い空間に整然と茶樹が植えられていた。数年前、管理する人がなくなり、耕作放棄地となったものをSさんが借り受けたのだという。向こうに山並みが見える。斜面の上の方から茶畑を眺め回すと、何とも言えない豪華な風景が広がる。雨の予報もあったが天気は崩れず、天空の茶畑、実にいい眺めだ。農薬などは撒かず、肥料も最小限に抑えているということだったが、この環境なら、茶葉の生育にはよいかもしれない。今年の一番茶の茶摘みは既に終わっており、1₋2週間後には再度元気に吹き出してきた茶葉を摘む予定だとか。

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ツアーメンバーはこの風景を見るだけで十分に満足しており、記念写真を撮ることに夢中になっている。よく見ると付近にも点々と小さな茶畑が見えている。一体なぜこんな山の中で茶作りが行われてきたのだろうか。地元の人と話していると『ああ、あそこは武田の間者だったから』などという言葉が普通に出てきて驚く。武田とはあの甲斐の武田信玄などで有名な武田氏のことである。この場面で400年以上前の歴史上の人物がいきなり登場するのがすごい。

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『この辺りは戦国時代に武田氏と今川氏が領土を争った場所』であるらしい。いまだにこの地域では、あそこは今川、ここは武田などという言葉が普通に語られるというから、その歴史にはよそ者には知り得ない、かなり根深いものがあるのだろう。そして何といっても、農民が間者となり、敵の動きを知らせていたということが、興味深い。これも平家の落人伝説などと並んで、1つの茶の歴史といえるであろう。これほどの山の中だから、木こりをするか、茶農家をするのが、怪しまれず、適当だったということか。もし敵方がこの山を越えて領内に攻め入ろうとすれば、きっと狼煙を上げて知らせたことだろう。今川が衰えた後は徳川が相手だったのだろうか。

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先ほど通り過ぎた農家に上がり込み、お昼ご飯を食べる。広々とした畳の部屋に地元の人が作ってくれたお弁当が用意されていた。この家は今や誰も住んでおらず、お願いすれば宿泊も可能、食事はないがいわゆる農家民泊としても利用できる。かなり広いスペースがあるので、大勢でワイワイ合宿するのも面白いかもしれない。縁側から山の景色を眺め、疲れた体を休めつつ食べるお弁当は実にうまい。因みにこの家の納屋には製茶道具などが今もそのまま置かれており、昔からお茶作りが行われていたんだな、ということがよく分かる。

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地元の人によれば、『昔はなんでも自分たちで作ったよ。この家の漬物が美味しいとこのあたりでは評判だったな。電話などない時代、子供が学校に行くと帰り道で手紙を託され、それで漬物を発注したり、その見返りにお茶を渡したり、そんな暮らしだった』と懐かしそうに話す。

 

食後はダラダラお休み。しばらくするとHさんによる日本茶講座が始まった。Hさんとはお茶繋がり、香港で知り合ってもう何年にもなるが、そのお話をキチンと聞く機会はなく、どんな内容なのか、とても興味があった。急須と茶杯が沢山用意され、各自に配られる。お茶の淹れ方、新茶と少し古いお茶の違いなどを簡単に、そして丁寧に教えていた。出がらしの茶葉を残しておいたご飯に載せ、ポン酢で食べたりするパフォーマンスには参加者から思わず声が上がる。特に急須に対する強い愛情がよく伝わってきて、参加者の共感を呼び、皆が家で自からお茶を淹れようという気になる内容だった。これはとても参考になる。素晴らしい。

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講座が終了し、このツアーは盛況の内に終了した。帰る途中、山の中で車が停まる。水が湧きだしているところがあり、その水を汲んで家に持って帰ろうとする人達がいた。お茶には水も大切、ということだろう。その後車で来た人は車で、電車で来た人はバンで静岡駅まで送られて行き、皆さんとても満足した様子で別れた。

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