両岸三通の茶旅2015(20)南投 茶を通じた真の交流

お茶を飲みながら

それから4年前も訪ねた林さんの茶荘に向かう。懐かしい茶荘もあったが、横には新しくモダンな建物が輝いていた。確か4年前は建設中だったと記憶しているが、今やこちらが中心となっている。ここの地下で焙煎作業が行われているようだ。U君はここの息子、威信とは実に仲良しだ。4年前は結婚直後だった彼には既に子供もいた。年月の早さを感じる。その可愛い娘がちょこちょこと歩き、名刺をくれる。彼女の名前が入った名刺を作ったらしい。

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そこにお客がやってきた。台中から来た有名な茶師一行だそうだ。早速今年のお茶の試飲会が始まる。彼らは各地のお茶の状況を調べるためにお茶屋に寄っているようだ。威信とU君もそれなりに真剣に対応している。特にU君は堂々と彼らと渡り合い、茶葉の質や焙煎状況などについて、意見を交わしている。何とも頼もしい限りだ。それにしても今年のお茶の出来はどうなんだろうか。雨が降り過ぎたなとか、霜がどうしたとか、色々と情報が入ってくる。

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台中組はすぐに帰っていった。他にも寄るところがあるらしい。この季節は皆とても忙しい。ちょうど昼時となり、ご飯を食べようと言われる。わざわざオーダーして作ってもらった甕缸鶏という鶏の丸焼きが用意されていた。甕の中で鶏を丸焼きすることから付いた名前だとか。初めて食べたが、カリカリの皮、ジューシーな肉、スパイスが効いており、実に美味しい。3人で一羽を、簡単に食べてしまう。油飯も一緒に食べる。台湾で今流行っている鶏料理ということだが、この近くで一番美味しい店からわざわざ取り寄せてくれたという。

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食事が終わると、またお茶を飲む。ここでは常にお茶に包まれている。阿里山金宣清香が軽い感じで香ってくる。飲み口も爽やか。杉林渓熟香、焙煎が実に心地よい。威信のお父さんに挨拶する。このお店のお茶は品評会で何年も連続して賞を取っている。これは生半可なことではない。U君はなぜか向かいのセブンイレブンからアイスクリームを買ってきてくれる。これには北海道、という名前が入っている。お茶とアイスも意外と合うかもしれない。

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凍頂山で

教会に戻ってU君のバイクの後ろに乗り、凍頂山を上って行く。田舎の足の基本はバイク、これがあればどこへでも行ける。運よく雨も上がっており、涼しい風に吹かれながら、バイクは軽快に進む。相変わらず周囲はビンロウの木ばかりが目立つ。4年前は自分の足で40分ぐらいかけて登り、U君と山頂で合流したが、今やその気力はない。バイクなら10分で着く。

 

山頂付近に行くと、茶畑はあまり見られなくなっていた。昨年3月にアンディと一緒にここに来た時も感じたが、農家は面倒なお茶より野菜の栽培にシフトしている。今回見てみると、茶畑を野菜畑に替えている土地、耕作を放棄した茶畑、雑草が生えたままの茶畑などが目に着く。観光客向けに伝統的な手法で釜炒りを見せる場などがあるが、今日は日曜日にも拘らず、人は誰もいない。

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一軒の家を訪ねた。多くの茶葉の焙煎をしているという。高齢化が進む凍頂の中では相当な若手に入る人。多くの人が茶葉を持ち込み、焙煎を依頼するとか。我々が入っていくと先客がいた。この人も有名な人だと言われたが、誰が誰だか全く分からない。皆が仕事の合間を縫って流動的に動き、茶の状況を確認し合っているようだ。この家では10年物、20年物、と言った陳年茶を味わった。いいお茶は味が落ちない、いやむしろ美味くなる。『これからはいい茶葉が少なくなる。いい茶葉は長く保存して味わおう』という言葉が本当に沁みる。

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それからまたもう一軒へ。こちらには一家4人がいた。もう還暦ぐらいの茶師、そのお父さんはかなり有名な茶師だったそうで、数々の賞をとったことは部屋を見れば分かる。早々にU君に茶葉を見せ、試飲が始まる。そして激しいやり取りが繰り広げられた。U君は堂々と茶葉について注文を付けていた。それに対してちょっとむっとした茶師だが、話はちゃんと聞いている。『こんな若造に言われたくない』という気持ちと『それも一理ある』という気持ちが交錯しているように見えた。このようなやり取りが本当の交流を生み、お互いを高めるのだな、と感じる。

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『お互いを理解した上で言いたいことを言う』、このような関係が望ましい。うわべだけ仲良くしても、いざという時、何の役にも立たない。名声に押されることなく、茶葉だけを見つめる目、そしてその意見を聞く耳、非常に大事なことだ。因みにこの家には息子がおり、既に嫁もいる。U君が付き合っている茶農家、茶師には必ず後継者がいるようだ。いくら有能でも後継がなくては、将来がない。若いU君らしい選択であろうか。夕方山を下りる時、激しい雨が降ってきた。何となくずぶ濡れになりながら、凍頂山の将来に思いが至る。

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