両岸三通の茶旅2015(8)安渓 張さんの鉄観音茶作り

3.安渓

張さん宅へ

運ちゃんとお茶を飲んでいると、おじさんがご飯の椀を持って食べながら部屋に入ってきた。茶農家では立って食べている人が多い。すぐ近くでお茶屋をやっている人らしい。ちょうど昼時、『うちで飯、食ってけ?』と誘ってくれる。普通なら遠慮するところだが、何となくこの辺に来ると、お世話になろうかなと思ってしまうところが面白い。運ちゃんも、それが良い、という顔をしたので、おじさんに付いていく。

 

バスの終点からすぐそこに彼の店、いや家はあった。『実はこの路線バスを誘致するのに貢献したから、バス停がここになった』という。村ではかなりの有力者らしい。確かに家も立派で大きい。その台所に行き、スープをよそってもらった。豚肉が沢山入っていて美味い。というか、相当に腹が減っていたのだ。朝松山空港でサンドイッチを食べただけで、金門-厦門を経由してここまでやってきたのだ。長い道のりだったが、逆に言えば、半日でここまで着いてしまう便利さに驚く。スープを飲み終わると炊き込みご飯を腹一杯食べ、大満足。農家では碗は1つしか使わない。スープを飲み切らなければ、ご飯はもらえないのだ。

DSCN3835m

 

そして居間に移って茶を飲む。彼のところは日本の大手メーカーとも組んで茶葉が作り、販売しているという。原料茶をかなり大量に扱っているということだ。手作り茶も一部あるようだから、かなり手広い。『これからは観光茶園を作ることも考えている』という彼。鉄観音茶の産地は変革を迫られている。お茶屋さんで食事をご馳走になったのだから、お茶を買わなければ、と思ったが、逆にタダで持っていけ、と言われたので、それはご迷惑だと何とか回避した。都会のお茶屋さんと違って、本当に素朴ないい人達だ。

DSCN3839m

 

そして張さんの家に行きたいというと、知っているからと言って電話してくれ、張さんの娘婿である安飛を呼んでくれた。彼は直ぐに家の前まで迎えに来てくれ、何とも有難いことだ。今やこの村は私にとって知らない村ではない。彼は安飛に、『うちの茶畑に連れて行ってくれ』と頼んでいた。我々は車で村外れまで行き、そこから丘を登る。きれいな茶畑が現れる。そこには観光客の若い女性やカップルが来ていて、写真などを撮っている。これから観光茶園が本格的になりそうだ。ただこの茶園の周囲でも、機械で茶葉を摘む、その機械音が鳴り響く。この音にはどうしても馴染めないが、いまや効率重視の茶作業、やむをえないのだろうか。

DSCN3844m

DSCN3850m

 

張さんの茶作り

ようやく張さんの家に着いた。安飛は車で行ってしまった。一人で家に入り、勝手知ったる2階へ上っていく。若者が一人、『誰だ、あれは』という顔をしていたが、張さんの孫だとすぐに分かる。彼はどこかに出稼ぎに行ったと聞いたが、今は戻って父親の茶業を手伝っていた。2階には誰もいないと思っていたが、何と香港の茶荘、茶縁坊の高さんがいた。彼女も突然の私の登場に驚いており、『一人で来たの?』と声を上げる。彼女は一人残って製茶した茶葉の枝とり作業をしていた。『沢山茶葉を摘んでも、製茶できないので』という理由だった。既に張さんは年齢を考え、天候を考え、茶作りを減らしていたのだ。

DSCN3858m

 

取り敢えず張さんの製茶場へ行こうということで、荷物を置いて、高さんと一緒に出掛ける。既に2回、ここに来ているので道は分かっているのだが、何となく毎回違うように見えるのは何故だろうか。キャベツ畑は同じだし、鶏や豚を飼っている家も同じなのに。少し歩くと急な斜面に見慣れた古い民家、そこが昔の張さんたちの自宅、現在の製茶場である。

DSCN3900m

 

張さんと高さんの息子は黙々と作業をしていた。私を見て張さんは『よー、来たな』という顔をしたが、言葉は交わさなかった。ちょうど摘まれた茶葉を天日干ししていたが、それを室内へ移動している。全て手で運んでいく。昨年と何一つ変わってはいない。周囲が何となく変化していく中、ここだけ時間が止まったような印象を受ける。相変わらず、周囲は機械摘みする機械音が鳴り響いている。

DSCN3878m

 

それから室内萎凋、大きな笊に茶葉を詰め、棚に収納する。そして床を丁寧に掃く。その姿は何となく茶室の外を掃く茶人、いや土俵を掃く行司のように見える。何とも様になっているのがすごい。張さんの動きには無駄がなく、そしてその所作は実に美しい。これが伝統の技というものだろうか。まるで芝居の一場面を見ているようだ。そこにまた新たに摘まれた茶葉が運ばれて来た。張さんは直ぐに天日干しの対応に追われる。一人芝居、という言葉がぴったりだが、その労働は過酷だ。

DSCN3873m

 

茶畑に行ってみた。摘んでいるのは張さんの奥さんただ一人。昨年は翌日が雨、という張さんの天気予報で、娘婿なども呼び出し総出で摘んでいたが、今年は余裕もあるのだろう。そして何より、茶葉を摘み過ぎないように配慮する家族。張さんの体力が限界に来ないように、そしてよりよい製茶が出来るように気遣っている。

DSCN3883m

 

奥さんが摘んだ茶葉を持って製茶場に戻る。また張さんの作業が始まる。そして休憩。作り終わったばかりの新茶を淹れてくれた。この瞬間のために私はここに来ているといつも思う。恐らくは水がいいのだろう。空気もいい。雰囲気も抜群だ。そんな中でお茶を飲む、最高のひと時だ。香りが吹き出し、優しい感じの味わいがあり、ほんのり甘い。甘露、という言葉がぴったりだった。

DSCN3903m

 

それから嫁さんがビーフンを作ってくれた。彼女は安渓の出身ではあるが、お茶とは無縁の生活を送ってきており、茶業は見習い、まずは自分の役割として食事の支度を担当していた。昨年も思ったが、このビーフン、少し塩気が強いがまたウマイ。台湾では新竹あたりがビーフンの産地だが、お茶とビーフン、何か関係があるのだろうか。

DSCN3902m

DSCN3907m

 

その後も製茶仕事をジッと見学していたが、夕暮れとなり、張さんを残して我々は引き上げた。そしていつもの健康的なお粥、野菜中心の夕飯を食べ、シャワーを浴び、何と8時前に寝てしまった。今日は朝一に台北を出発して、飛行機、フェリー、バスと乗り継いだ旅だったから、疲れが出ていたのかもしれない。長い長い一日は終わった。

DSCN3915m

DSCN3918m

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です