両岸三通の茶旅2015(7)安渓まで行く路線バスで

五通の港から

ここは五通という名の港だった。案内所で同安行きのバス乗り場を聞いたが、何と『タクシーで行け』と言われてしまう。仕方なく建物の外へ出ると、白タクの運ちゃんが寄ってくる。『同安』というと、『120元』という。きっと高過ぎるのだろうと思い、無視すると『100元』に下げてきたが、それでも無視すると追って来なかったので、相場は70-80元かと見当を付ける。

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その向こうに停まっているタクシーに『70元』といってみると『俺はメータータクシーだ』というではないか。何だ、それなら、と乗り込む。車は空いている道をかなりのスピードで飛ばす。確か日航ホテルから空港に向かった道だった。なんだこれなら11時半のバスに余裕で間に合うと喜んでいたら、途中から渋滞に嵌る。今の中国ではちょっとした田舎でも渋滞が多い。本当に車が増えたんだな、と実感する。

 

なんと11時25分にタクシーはバスターミナル前に停車した。奇跡的にバスに間に合った、と喜んでターミナルに入り、荷物の安全検査を終えて『安渓大坪行バスは』と声をかけると、そこにいた職員が『え、今出たよ!この建物を急いで出たら、道で捕まえられるかも?』と言うではないか。えー、何だそれ、まだ出発時刻じゃないぞ、などと思ってみても事態は変わらないので、荷物を引き摺り言われた通り走ってみた。道の角を曲がると、ちょうど小型バスが1台、ひょろひょろと頭を出してきた。『大坪か?』と聞くと何とそうだったので、急いで乗り込む。まさに奇跡的に間に合った。

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日本を知らない中国人

バスは意外なほど込み合っており、立っている人が何人もいた。そこに飛び入りの私が加わり、更には私の重い荷物が持ち込まれたので、嫌な顔をされるのは当然かと思ったが、そこは中国、日本と違ってそんなことはなかった。運転手の後ろ、荷物置き場に腰かけていたおばさんが『こっちに荷物置きなよ』といい、大きなバッグは『おじさんとこに入れて』といって前に座っていたおじさんの足の間に入れてしまった。驚くほどの親切。そして私に向かって『あなた、日本人でしょ』と中国語で聞いてきた。

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私は日本人に見られることが少ないので、ちょっと驚いたが、聞けば、アモイで働いており、日本人の友人がいるのだという。そうか、日本人を一人でも知っていれば、その仕草、態度で何となく分かるものなのだろうか。そのアモイの日本人に私は救われた思いだった。彼女はきっといい人なのだろう。

 

ところがそのやり取りを聞いていた運転手が突然『なに、お前日本人か?日本人は良くないぞ。何しろ30万だからな』と言い出した。『え、30万、何?』と聞き返すと『南京だ!』というので言いたいことは理解した。実はこれまでもこんなやり取りは偶にあったのだ。中国人で日本のことを知らない人は実に多い。彼らは日本について、何とか自分の知っている知識を頭に思い浮かべようとするが、その結果が南京だったり、尖閣だったりすることがある。

 

さて、どう答えようかと思っていると、さっきの親切なおばさんが運転手に向かい、『あんた、何言ってんのよ。昔の話なんか私たちに関係あんの?今の日本人はね、私たちよりずっと礼儀正しいのよ』と私の代わりに反論してくれたのだ。これにはいささか驚いたが、それ以降、運ちゃんは黙り込み、周囲の乗客もだれ一人、この話題に触れるものはいなかった。

 

バスはどんどん山を登り始める。確か去年まで乗っていた村で運営していたバスは25元ぐらいしたが、この路線バスは僅か3元。泉州市政府が補助金を出しているようだが、これによって大坪の住民が山を下りやすくなっており、乗客の殆どが村の人だった。反論してくれたおばさんも村の出身であり、偶々里帰りの途中だったようだ。この路線バスは人の流れを確実に変えているという。

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バスはゆっくりと進み、少しずつ乗客を降ろし、1時間ちょっとでようやく終点までやってきた。何となく見覚えのある場所だが、目指す張さんの家がどこにあるのか、その方向が良く分からない。張さんたちは今頃、茶畑と製茶場にいるだろうから、さて、どうしようか、朝から張さんの娘婿である安飛にはメッセージを入れたのだが、返事がなかった。すると運転手が『おーい、日本人、茶でも飲んでいかないか』というではないか。普通なら先ほどあんなやり取りがあったのだから、関わりたくないと思ってしまうが、なぜかこの場合、彼について事務所へ行ってしまった。お茶、と言われると弱いことを露呈してまった私。

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今年の新茶だ、と言いながら運ちゃんは慣れた手つきで、茶を淹れてくれた。乗客のおばさんが一人、一緒に飲み始める。運ちゃんは『ここに電話して今日の運転手は良かった、といってくれないか。外国人から褒められるとボーナス貰えるかもしれないから』と言いながら、私に電話番号が書かれた紙を渡してくる。さっきはあんなことを言いだしたのに、何てやつだ、と私は思わなかった。彼の真意は何となく分かっていた。彼は間違いなく、先ほどの発言を後悔していた。だが彼としては村人皆の前で謝ってはメンツが立たない。その結果がこのお茶になったのだ。何とも人の良い、田舎のおじさんだ。『中国人がもっと日本人、日本のことを知っていればこのようなことは起こらないのに』と思いながら、『いや、もっと深刻なのは日本人が中国に来なくなり、中国が分からなくなることだ』との思いに至る。

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