四国・和歌山・静岡茶旅2015(2)愛媛 お遍路寺で即席セミナー

2.石鎚

石鎚神社

実は電車に乗っている時に、突然電話が鳴った。石鎚の地元の方からで、何と迎えに来てくれるという。『では駅の改札を出たところで』というと、『改札なんてありません。ホームに立っていてください』という。伊予西条から一駅目にある石鎚山駅。電車を降りたのは私とK和尚の二人だけ。そして駅舎はあったが駅員はいない無人駅。何だかとても遠くへ来た感じがした。

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NPO法人のHさん、この地の石鎚黒茶を受け継ぐ天狗黒茶の製造を行っているという。まずは車で駅前にある石鎚神社にお参りに行く。実はS君とIさんが車で先に到着しているはずだったが、何と瀬戸内海に雪が舞い、スピードを落とした運転により、大幅に遅れていたのだった。この石鎚神社、1330年の歴史を持つ、由緒正しい神社。ちょうど改修中ではあったが、その威風は堂々としている。遠くに海が見える。昔は海の近くに建てられた神社、いつの間にか埋め立てなどで海から遠ざけられている。

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お参りを済ませると、ちょうどIさん、S君が到着した。Hさんが『宮司さんにご挨拶を』というので社務所の中へ入る。正直なぜこの神社にお参りにやって来たのか、そしてなぜ宮司さんが出て来られるのか、全く分からなかったが、流れに任せることにした。宮司さん、祢宜さんとお話しする。当方の目的は石鎚の黒茶、この歴史のある石鎚神社にも何かお茶に関係した資料などはないかと聞くと、昔の火事で殆ど資料は残っていないという。大変残念な話だが仕方がない。

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すると祢宜さんが『実は私は石鎚黒茶が作られていた山の村の出身だ』ということで、その当時の村の様子などを伺う。きちんとした道などはなく、けもの道を登っていく。一般人がこの村へ入るのは大変だったらしい。それでも祢宜さんが小学生の頃は子供たちもいたが、その不便さゆえに徐々に人口が減り、黒茶の作り手も減っていった。そして3年前に最後の作り手、曽我部さんが石鎚山を下り、石鎚黒茶は途絶えたという。

 

神社を出ると既にあたりは暗くなり始めていた。清々しい神社の夕暮れ、何か寂しいような、そして荘厳な雰囲気、張り詰めた中に何となく優しさが感じられたのは、普段接することのない、宮司さんや祢宜さんと会って、直接お話したからだろうか。ちょっと神社が身近になった気もする。

 

仙遊寺にて

そして車で今日の宿泊場所へ向かう。神社から車で小1時間、結構な山道をいく。そこにあるお寺、仙遊寺はお遍路さんも通う、四国八十八箇所霊場の第五十八番札所。ほぼ暗くなった道を登ると、駐車場には車が沢山停まっていて驚く。お遍路さんは今や車で来るのだろうか。確かにこの道を歩いて登るのは大変だし、バスもあまり通っていない、と思われる。

 

お遍路さん、とい言葉には何となく憧れた時期もあり、また知り合いが遍路旅に出た話を聞いたこともあるが、実際には全く知識がなく、どんなところに行き、どんなところに泊まるのかも分からない。本堂脇を進んで行くと、きれいな建物があり、『宿坊(天然温泉)』と書かれた札があって驚いた。ここは1泊2食、温泉付きだそうだ。簡易宿舎というイメージはない。

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そして何より驚いたのは、大広間に大勢の人がいたことだ。何か地元の集会でもあるのかと思っていたが、何と我々のために集まってくれた人々だったのだ。確かIさんが直前にお茶関係者に声を掛けてくれた、とは聞いていたが、2₋3人の集まりだと思い込んでいた。ところが何と20名もの方に来て頂き、何と私と和尚が即席セミナー?を行うことになる。時間は既に7時だが、夕飯は後にして、早速お話をさせて頂いた。

 

話の内容はズバリ、『ミャンマーの酸茶』。11月に行ったミャンマー山中の茶旅を話し、実際に酸茶を飲んでもらうという趣向となった。お茶淹れはS君の仕事、彼はこのために?茶具一式を持ってきており、茶杯も沢山用意していた。さすが。聴衆はお茶関係者、特に石鎚黒茶を引き継ぐ、天狗黒茶の生産に関わっている方が多く、興味を持って頂けたのでは、と思う。

 

K和尚は『新タイの僧院にて』という題で?3年間のタイのお寺生活の体験談をユーモアたっぷりに、実に分かりやすく、話していた。この人は高野山大学の博士であり、南方熊楠の研究者でもあるので、話の幅はかなり広い。四国のお寺でタイの仏教の話を聞くのは、とても興味深い。日本の仏教とは何なのだろうか、と真剣に考える機会となる。尚今回は仙遊寺のすぐ傍のお寺の住職も来ていたが、彼もK和尚と同じ研究者だということで感激の対面をしていた。

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会は大いに盛り上がり、地元の人同士の交流の場にもなったようだ。もし我々が来たことで、少しでもお役に立ったのであれば喜ばしい限りだ。こんな機会がまたあるといいな、と感じる。夜10時前にようやく夕飯にあり付く。ここで採れた野菜のてんぷらなど、美味しい精進料理が並ぶ。食後は温泉に浸かり、疲れを癒す。やはり日本の旅はいいな、とつくづく思う。普通のお遍路さんは2階の部屋で寝るようだが、K和尚がいることにより、我々男子3人は特別に1階の部屋で寝る。実に温かい夜であった。

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