華南お茶散歩2015(2)マカオの英記茶荘

英記茶荘

今回のマカオ訪問の目的の1つは英記茶荘を訪ねることだった。3年前に香港の長洲島の爺さんが是非一度行ってみるとよい、と言った場所。この爺さんは広東省順徳の出身で、1937年日本軍の広東進攻でマカオに逃れ、親戚を頼って英記茶荘で働いたという。今でも昔の姿を留めている唯一のお茶屋さんだとか。

 

新馬路をまた歩く。そして十月初五街というユニークな名前の通りを行く。この通りはかなり昔のマカオが残っているが、その中でも英記茶荘のビルは遠目に見ても年代物。間口の狭い店先、上には『寿眉王』の文字がある。白茶か。中を覗くと、古めの茶缶がずらりと並んでいる。一見さんには入りにくい店だな。

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中に入っても、特に誰も相手にしてくれない。オジサンは新聞を読み、オバサンは他の客と話し込んでいる。仕方なく、ウロウロ見ているとオバサンが『何が欲しいのか』と普通話で聞いてきたので、『この店の歴史が知りたい』と切り出した。だがオバサンは『そんなこと聞いてどうするの?』という顔をするので、伝家の宝刀、『コラムを書くんです』と言ってしまった。それでもオジサンはピクリともしなかった。

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オバサンが簡単に説明を始める。1932年に開業以来、この場所で、常に同じやり方で売っているという。確かにこの店内を見れば、ほぼ昔のままの様子が見て取れる。だがなぜマカオにお茶屋さんが?香港との関係は?など質問していくと、さすがにオジサンが口をはさみ始める。戦前は雲南や広東から戦乱の中を逃げてきたお茶屋さんがここに集まってきた。一時はここでも茶の加工を行っていたが、戦後は茶葉の供給などが香港と中国の間で行われるようになり、その結果マカオの地位は低下したという。

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話している間にもお客が何人かやってきた。皆常連さんで、『いつもの』という感じで買っていく。中に一人、結構高そうな茶を注文した人がいた。プーアール茶の原料となる緑茶?で、オジサン自ら奥に行き、取りだしてきた。値段はかなり高かったが、私も話のついでに少量購入した。更に白茶も必要だったので購入。その後は話もさらにスムーズになる。

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そこへおじいさんが入ってきた。長洲島の爺さんと同い年のここのオーナー。Iさんが『京劇役者のように色が白くて華奢』と言っていたが、まさにそんな感じの人だった。職人として生きた長洲島の爺さんと、オーナー一家に育ったこのおじいさんでは、環境がかなり違っていた。それが顔の色にも出ているのだろう。おじいさんは、我々の話に加わらずに、ボーっとしていたので、一緒に写真を撮ってもらうことにした。何となく元気がないような気がしたが、気のせいだろうか。そしてこの店はいつまでもこの状態で営業していくのだろうか。不動産が高騰し、周囲がどんどん変化していく中、常態を維持することは簡単ではない。因みに香港にも同じ名前の茶荘があるが、全くの無関係だそうだ。香港の茶荘がなぜこの名前を付け、古くから営業していると言っているのかは分からないとのこと。

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マカオ散歩

茶荘を出て、気ままに歩く。この付近は一等地であり、開発が進んでいる。ずっと歩いていくと、聖アントニオ教会がある。昔来たことがあるな、と思う。そうこの辺、何となく懐かしい。周囲を見渡すと、何とカモンエス公園があるではないか。カモンエス、ポルトガルの詩人で東方に流れ着き、マカオにも2年住んだという。確か日本にもいたことがあったような気がする。大学生の頃、彼を描いた映画?を見た記憶があるのだが、錯覚だろうか。

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東方基金会の立派な建物を覗く。東インド会社が作られたマカオには、往時を偲ぶ様式の建物がたくさん残っている。プロテスタントのための墓地も設置されており、1800年代にこの地で亡くなったヨーロッパ人の墓が存在している。公園内、坂を上ると古いカモンエスの胸像が見える。この辺りは非常に落ち着いた空間があり、大好きな場所の1つである。観光客の姿はなく、マカオの庶民が寛いでいるのがとても良い。

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更に歩いていくと定番コース、大三巴牌坊の裏に出た。聖ポール天主堂跡だが、火事で教会が消滅し、現在はファサードだけが残っている。このファサード、キリシタン禁令で本国を追われた日本人職人が建造に参加したことでも知られ、日本とマカオの繋がりを偲ぶ場所であるが、今や中国人観光客を中心にして、大勢の人が行きかい、とてもゆったりと物思いに耽る環境にはない。

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特に大三巴街は人が多過ぎて前に進むことも出来ないほどの混雑ぶり。まるで毎日がお祭りのようである。その中杏仁餅で有名な鉅記という店は、この道なりに3軒も存在しており、しかもどの店にもお客が一杯という不思議な状況を見せている。コンビニのように店ごとに競争させているのだろうか。中国人観光客が試食品をバクバク食べ、10箱、20箱と買い込んでいく姿は圧巻だ。

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混雑を抜け、落ち着くために、ドン・ペドロ5世劇場やロバート・ホー・トン図書館を訪ねる。この辺の風景は実に良いと思うのだが、観光客は少ない。それがまたよいとも言えるのだが、ここも皆世界遺産だよ、と言ってみたくなる。マカオ散歩はこの付近が一番良い。10年以上前のクリスマスイブにこの付近の教会のミサを見学した時の荘厳な様子が鮮やかに思い出される。

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そして何と言っても、亜婆井前地。マカオで最初にポルトガル人が住み始めた場所らしい。天然の水が井戸から湧き出している。大きな木の下のベンチで老人がゆったりと座り込む。ここになると、まさにローカルマカオ。今回はそこから丘を登ると、西望洋聖堂に辿り着く。ここからマカオタワーなどが一望できる。少しもやっているが、よく見える絶好のロケーション。ポルトガル人はここから故郷を思ったのだろうか。

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