梨山に登る2014(6)梨山 土砂崩れで危機一髪

大禹嶺の茶畑

昼飯がやってきた。野菜の炒め物、魚、何でもウマイ。何度でも食べられる。塩味が効いていてよい。午後、宅急便がやってきた。正直こんな所まで来るのか、と驚いた。『黒猫』は今や台湾でも誰もが知る名前。『他の業者は来てくれないが、黒猫だけは来てくれる。有難い。お蔭で、作った茶葉をすぐに豊原に送れる』と喜んでいる。担当者も動作がきびきびしていて、重い茶の箱を慣れた手つきで運んでいく。こんなところにも日本の技術、いやサービスが生きている(恐らくはヤマトは出資せずにノウハウを提供しているだけだろうが)。

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Johnnyが『行こう』と言って車に乗り込む。今日は遂に有名な大禹嶺の茶畑に行けるらしい。ここから車で30分ぐらいと聞いて、気楽に出掛けたのだが。Johnnyが妙に時間を気にしている。茶畑で何かあるのだろうか。ある程度の所まで行くとJohnnyが『やっぱりな』と残念がる。前を見ると、こんな山の中で渋滞が起こっている。信じられない思いで見ていると、彼は車を下り、前方を確認に行く。事故なのだろうか。付いて行く。

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何と通行止めだった。そして驚いたことにはこれは昨年の集中豪雨で土砂崩れが起きて以降続いているらしい。何と1時間の間に僅か10分だけ、通行が許されている。前の方には香港から来たサイクリングチームが楽しそうに話しながら、待っている。更に前を見ると確かに崩落しているところがあり、剥げ落ちた山肌で作業している人がいる。

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20分後にようやく通行が出来、無事茶畑に着いた。ここも急斜面。Johnnyのおじいさんたちが切り開いた場所の近くらしい。現在でも不便な場所、今から40年も前にどうやってここへやって来て、茶畑を作ったのだろうか。ここにもジェットコースターの小型版が設置されており、摘んだ茶葉が次々に運ばれている。我々は歩いて登ってみる。登るだけでも大変なのに、摘み手は素早い手の動きでどんどん摘んでいる。

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隣の畑は木が切られていた。ここは政府の所有地だとか。最近台湾政府は自然災害、土砂崩れなどの原因として、『茶樹を植えたこと』を挙げているようだ。その是非は良く分からないが、茶農家は当然反発している。政府は強制的に畑を接収していると聞いていたが、ここにもそれが現れていた。だが、木を切った後、なにも植えられていない。これではもっと悪い状況ではないのか。如何にも台湾的対応。これで土砂崩れが起こったらどうするのだろうか?これから高山茶の畑も減少して行く運命にあるのは間違いがない。

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皆、ギリギリまで茶葉を摘んでいた。日は傾いたがまだまだ明るい。ただ通行止めの時間を見て、そして茶葉の工場での処理を考えて、切り上げた。そして大量の茶葉を摘み込み、車で戻る。通行止めの場所をクリアーして、さあ、工場へ、と思ったところで、思わぬ言葉を聞いた。『路、不見』、え、何だそれ。道が見えない、とは?

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道路陥没

何と山道の路肩が落ちており、車は通れなくなっていた。僅か1時間半前に通った道なのに。崩れた時に通っていたら、命はなかった。どうするんだ、と見ているとJohnnyは携帯で工場に電話を入れ、あるだけの車を呼んでいた。車は通れないが、人はまだ何とか通れるらしい。経営者としては、人命が確保されれば、次は茶葉。何としても摘んだ茶葉を生かさねばならない、それは摘んだ人々も同じ気持ちだったろう。

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おばさん達は車から茶葉の入った籠を取り出し、担いで歩き出した。Johnnyは彼らについて一緒に向こう側まで行ってまた戻ってきた。そして私に『どうする?』と聞く。茶葉と一緒に工場へ帰るか、車と一緒に迂回路を通って帰るか。迂回と聞いたが、2₋3時間はかかるらしい。しかしここでJohnnyを見捨てるわけにはいかない?私も彼に同行して車で今来た道を引き返す。閉鎖されている道路の最終通行時間を何とかクリアーして茶畑の横を通り・・。

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それにしてもなぜ急に崩れたのだろうか。私が台湾に来る前の日、花蓮で強い地震があり、この辺りもかなり揺れたらしい。そして毎日雨が降った。強い雨ではなかったかもしれないが、連日少しずつ地盤が緩んだ。そして地震の数日後、とうとう崩れたということ。山ではすぐに土砂が崩れのではない、と分かると、急に恐ろしくなった。

 

少し行くと道路脇で車が停まる。全部で4台の車が繋がっていた。建屋に皆が入っていく。知り合いの茶農家らしい。ちょうど皆がご飯を食べていたが、我々もそこへ入り込み、一緒に食べ始める。先ずは腹拵えということか。周囲には茶葉が室内で干されている。食べ終わると、双方お茶の情報交換が始まった。基本的に台湾語なので良く分からないが、長老を中心に、輪が出来た。困った時の相互扶助、山間部の連帯を見た。

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そして山道を行く。既にあたりは暗く、どこを走っているのかは分からなかったが、どうやら別の山を越えて、回り込もうとしているらしい。途中3000m近くまで登る。そこに何と数時間前に見かけた香港人のサイクリングチームの姿があった。雨が降ってきている。気温は10度ぐらいしかないだろう。

 

隊列は既になく、個人の力で喘ぎながら登っている。遅れている人たちは危険な状態にあるようだ。Johnnyは車から降り、リーダーと思われる男に近づき、道を教え、指示をしている。そして車に積んでいたパンを与え、励ました。Johnnyの優しさが溢れていた。山は本当に恐ろしい。あの通行止めで予定時間が狂ったのだろう。更にここまで寒いとは思っていなかったかもしれない。間違えば遭難の危機だった。全員が無事に目的地に着いたのかは分からなかったので、心配だ。

 

それから山を越え、また別の山道を行く。所々道が崩れているのを見て、これは決して簡単な旅ではないことが分かる。下手をすれば、また土砂崩れが起き、巻き込まれる可能性もあった。細い道では水が溢れているところもあり、常にリスクを感じる。2時間以上、登って降りてを繰り返し、大きな道にセブンイレブンを発見した。ここで休息。Johnnyは『ああ、20日ぶりに文明社会に戻った!』と大きく伸びをして、何とアイスコーヒーを注文した。確かにお茶ばかり飲んでいたので偶にはコーヒーという気持ちは良く分かる。そしてあの山の中の工場から見れば、コンビニが輝いて見えるのも頷ける。

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それから30分ぐらい走り、ついに工場に戻った。夜も10時を過ぎており、3時間半以上かけて迂回したことになる。いや、これは迂回などというものではなく、全く別ルートを命がけで脱出したというべきだろう。民宿のベッドで初めて『恐ろしい』と思い、眠れなくなる。

 

1 thought on “梨山に登る2014(6)梨山 土砂崩れで危機一髪

  1. 土砂崩れの危険性を常に持ちながらの茶畑大変な事ですね
    何処の世界も同じく政府の方針と民間人の差は
    どうする事はできませんね
    地盤の緩さを
    問題は別として造成して欲しいですね人の命を大切に考えて欲しいですね

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