京都、滋賀、兵庫茶旅2021(5)城崎温泉にて

10月25日(月)城崎温泉へ

満腹の腹を抱えてゆっくりと睡眠をとった。今回の旅に出てから10日近くが経ち、さすがに疲れが出てきていたので、何とも良いタイミングでリラックスできた。宿を後にして、豊岡市に向かった。まずは豊岡の図書館へ行く。但馬の国の歴史に関する展示があり、山名氏と茶の関連を窺わせるものもあった。そしてNさんのお知り合いが丁寧に説明してくれたので、てっきりここの学芸員さんだと思っていたら、違うらしい。

お昼に出石そばを食べに行って正直驚いた。さほど大きいとは思えない出石の町には、何と43軒もの蕎麦屋が並んでいた。そして小雨の平日にもかかわらず、多くの人が車でそばを食べてきており、その人気も実感した。なぜこの街にそばがあるのか。江戸時代信州上田の藩主が国替えでこちらに来た折、そば職人を連れてきたのが始まりとか。

そのそばの出し方も独特。『割り子そばの形態をとっており、この形式となったのは幕末の頃で、屋台で出す時に持ち運びが便利な手塩皿(てしょうざら)に蕎麦を盛って提供したことに始まった』という。五枚一組を一人前と言われ、テーブルの上はそばの小皿で埋め尽くされていく。

食後の散策。この街には沢庵和尚がいたお寺もある。大河ドラマ『八重の桜』でみた山本八重の最初の夫、川崎尚之助の出身地でもあった。川崎は八重の兄、覚馬と同門の秀才。そしてなんとあの中嶋神社まであった。この神社は菓祖と呼ばれ、お菓子の神様なのだが、実は先日佐賀の伊万里に行った時もこの神社に出会っている。田道間守が垂仁天皇の命で常世の国に渡り、橘を持ち帰り、これが菓子の始まりという話も全く同じで驚いた。なぜここにもあるのだろうか?

それから車で1時間、城崎温泉に入った。志賀直哉の小説、中学生の頃に読んだだが、名前しか覚えていない。ずっと気にはなっていたが、とうとうここに辿り着いたという感覚だった。如何にも温泉街という雰囲気の一軒に入る。何とも老舗旅館だったが、これもNさんのお知り合いということで泊めて頂く。

なんと幕末禁門の変に敗れた桂小五郎が隠れていた宿の後継だという。内部には多くの展示があり、かなりの興味をそそる。私は一人で立派なお部屋に案内され、大満足。この部屋は内庭を眺められ、そして文机が置かれており、まさに小説が書けそうだった。

お風呂は内湯もあるが、外に七つの温泉があり、やっていればどこでも入れるという。取り敢えず雨だったので、内湯に浸かり、夕飯はNさんたちのお部屋で、但馬牛やカニなどごちそうを頂く。特にお願いしたわけではないが、2日続けてこんな贅沢な旅、いいんでしょうか?いいんです!

10月26日(火)城崎を回る

翌朝は早めに目覚めた。小雨の温泉地、浴衣で出掛けた。宿の向かいには立派な宿があった。城崎温泉の風情、素晴らしい。周囲を散策した。小川を挟んだ写真映えのする風景。志賀直哉もそんな気分だったのだろうか。小学生が学校に行くのに出会う。彼らは毎日こんな温泉客を見て育つのだろう。

朝ご飯を頂く。これまた立派。こんなに食べて小説など書けるのだろうか?私ならこれで温泉に浸かれば一日ボーっとしておしまいだ。数分歩いて外湯の一つに入る。朝から結構お客がいる。広々とした湯船に浸かると極楽気分になれる。ゆっくり風呂から出て、更に周囲を散策した。

宿に戻るとNさんたちはご主人から展示品の説明を受けていた。桂小五郎、志賀直哉など様々な資料や写真が展示されている。よく見ると、お茶を淹れる道具も揃っている。老舗旅館には色々と見るべきところがあるものだ。Nさんとご主人に感謝。

宿を出て、城崎温泉元湯を見る。薬師源泉と書かれており、薬効があるのだろう。それから薬師堂へ行く。そこから歩いて温泉寺に向かう。普通はロープウエイで行くのだろうが、運動すべきと歩いていく。かなり急な坂道で驚く。ようやくたどり着くと、そこには立派な本堂があった。

我々がここに来た理由、それはご本尊が33年ぶりにご開帳、しかもあと数日でお目に掛かれなくなるからだった。ここもNさんのお知り合いであり、丁寧にご案内頂いた。このお寺は聖武天皇の命名で、十一面観世音菩薩像もその時代の作だという。1300年の時を超えて、ご対面できるとはなんと幸せなことだろうか。お寺から眼下の街を眺めるのも良い。

急な坂を転げ降り、城崎文芸館に行ってみた。ここは現代的な施設で、先ほどの空間との対比がすごい。文芸館、取り敢えず志賀直哉中心の展示かと思ったが、城崎温泉ゆかりの作家を多数登場させていた。志賀直哉がこの温泉に来たのは東京で山手線にはねられ、重傷を負った、その療養だと知る。

帰る時刻となった。私はここから京都まで行き、新幹線に乗り換えて、東京へ戻る。Kさんと京都まで同行して、そこで別れることにした。城崎温泉初の特急、平日の昼下がり、かつコロナ禍だから、ガラガラだろうと自由席を買うと、この車両だけかなり込み合っていた。何と自由席は一両しかないらしい。皆考えることは同じだ。

特急城崎18号は2時間半で京都駅に着いた。各駅停車を乗り継ぐより、1時間程速い到着だった。新幹線に乗る前に駅弁を買い込む。ここから品川までは2時間しかかからない。新幹線はやはり早いがつまらない、と思ってしまう。

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