島根横断茶旅2019(4)出雲から津和野へ

3月10日(日)
出雲から津和野へ

翌朝は宿の朝食を頼んでおいた。2階の食事場所は、和食屋さんの座敷で、ビジネスホテル+サウナの朝食とは思えない旅館気分。意外とたくさんの人が泊まって朝飯を食べていたのにはちょっとビックリ。結局サウナにも入らず、車に乗り込み出発した。

 

車で1時間ぐらい行った山間に美郷町はあった。まずはスーパーに行く。後で知ったのだが、ここが街で唯一のスーパーだそうだ。普通の物も売っているが、地元の農家が持ち込んだ野菜なども売られており郷土色がある。中でも驚いたのはイノシシの缶詰。最近この町が発信して流行っているという。お茶も地元の番茶などが並んでいる。この町には鉄道駅もあったが、既に廃線になっているという。

 

茶農家を訪問する。道路脇に家が少なくなると、どこの家へ行けばよいか分からなくなる。何とか探し当てると、そこには農作業をする老夫婦がいた。ここに住んでいる訳ではなく、茶を作るために来ているらしい。父親の代からここで茶作りをしているが、茶だけで食べられない時期は、山仕事の会社に勤めていた。その時はバブル期で社員旅行にタイや韓国に行った話を楽しそうにする。お母さんが被っていた編み笠はその時タイで買ったものだというから物持ちが良い。

 

番茶も作るが煎茶も作る。売れるものを作るのが茶農家だという。向こうの畑は苗を植えて1年、べにふうきでこれから紅茶を作るというから、何とも元気だ。だが息子は松江で働いており、後を継ぐかどうかは分からない。周辺の茶農家もどんどん辞めていき、今は3軒ほどになっているという。何ともきれいな茶畑と風景、残せるといいが、それもまた経済が前提か。

 

帰りにここのお茶を買おうとして、一軒の家を探す。そこでしか売っていないというので行って見たが、昔は雑貨屋だったと思われる店、今商品は殆どなく、お茶だけがぽつんと置かれていた。店主のおじさんと話すと『この村でも出征経験があるのは私一人になってしまった』と言い、人口減少で、小さな店はほぼ無くなり、先ほどのスーパーが残るだけになっているらしい。隣を見ると小さな茶工場があり、往時は沢山の農家がここで茶を作っていたのだろう。

 

ここ美郷町には比較的大きな川が流れているが、少し上流に行くとダムがあった。1950年代に出来たとあるが、先ほどの農家では『ダムのせいで、この付近の気候(霧の出方など)が変わり、茶作りに影響が出た』と言っていたがどうだろうか。開発と環境保全、古くて新しいテーマではないか。

 

それから車は日本海側に出て、大田、江津、浜田を通り抜けて、2時間以上かけて雨の中、益田市までやって来た。もう山口県とは県境だ。益田の街中で、日曜日の今日はイベントが行われているという。だがイベント会場には駐車場の空きがなく、駐車できない。仕方なく、まだ食べていなかった昼ご飯にありつく。街をちょっと抜けたところにあるその飯屋は、古民家を改造した建物で、非常に素晴らしい。食事の内容も豪華で、かなり満足度が高い。

 

満腹になったところで会場に戻り、何とか駐車した。グラントワという芸術センター、非常に立派な、美術館などを併設した複合施設だ。その中庭では大雨にも拘らず、神楽が上演されており、熱心に見入る地元の人々がいた。益田、いや島根では神楽は日常的なもので、小さい頃から見慣れているという。上演が終わると、子供たちがその衣装を着せてもらい、写真を撮るなど、文化の継承が行われていた。ここで今日はUさんたちが作る吉賀町のお茶も売られていたが、あいにくの雨でお客は少なかったらしい。

 

ちょっと寄り道、と言って、連れていかれた場所は茶器などを作る工房だった。裏には窯もあるという。そこで作られている物は萩焼とはまた別の益田の焼きも、雪舟焼の窯元だった。あの雪舟に因んだ名が付いており、近年注目されているという。会話は当然のように茶道になっていき、ご主人がサラサラっと、お茶を点ててくれるのが良い。雪舟繋がりで、近所にあるお寺も訪ねてみた。雪舟は益田に滞在していたようだ。

 

Uさんが現在住む吉賀町に向かうことになったが、その前に今晩の私の宿を確保すべく、電話を掛けてくれた。だが何と、いくつかの宿は満員と言われてしまう。この雨の日曜日の夜に満員とはあり得ないだろう。きっとお客がいないので、今日は休業していると想像するが、泊まる所がないのは何とも困る。

 

結局吉賀町に泊まるのを諦めて、津和野に向かうことになった。津和野、何とも懐かしい響きだが、勿論来たことは一度もない。その昔、JRのコマーシャルで見たのだろうか。一時津和野ブームが起こっていたらしい。暗くなる頃、津和野に入り、民宿に投宿した。昔は繁盛した宿なのだろうが、今晩は一人の客もいない。食事が出来る場所も限られており、早々に6畳の部屋に帰り、テレビを見て寝てしまう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です