茶旅の原点 福建2016(4)野生化した茶樹

野生化した茶樹

お寺の帰りに寄るところがあるという。道路沿いのガソリンスタンドで待ち合わせ。先方が車でやってきたが、人数の関係で車を変えると言い、去っていく。どこへ行くんだろうか。何でも古い、野生の茶の木があるといっているのだが。ランクルで山道を分け入っていく。道路はいいのだが、山道はきつい。かなりの急カーブ。果たしてこんなところに茶畑があるのだろうか。

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しばらく行くと、茶畑が見えてきた。きれいにそろって植えられており、比較的新しく見える。これが野生の茶樹とはとても思えない。更に行くと、山中には不釣り合いな茶工場が見え、車を降りた。そこで雨が降り始める。仕方なく、工場を見学する。かなり広い工場で、中には烏龍茶を作るための機械がワンセット、設置されていた。かなりの設備投資が行われている。福清に茶畑があり、茶が作られていることを初めて知った。

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お茶を飲みながら説明を受ける。ここは長らく、人里離れた山の中であったが、リゾート開発を行う予定で、ある不動産会社が購入し、道路整備などを行った。これからは静かな、自然の環境の中で過す、と言ったスタイルが想定されたようだが、その過程で山の中に大量の古い茶樹が発見されたという。ちょうどプーアル茶などがブームになり、古い茶樹から採れる茶葉が持てはやされていた。そこに目を付け、この茶葉を使い、お茶を作ることに方針転換したらしい。福清の茶、というのは、新鮮な感じがする。

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実際にお茶を飲んでみた。山の水が沸かされ、期待がもたれたが、お茶としては、まだ生産を開始して1-2年。焙煎が強く、これからというのが正直な感想だった。茶葉はあるが、それを如何に加工するかについては苦労しているようで、武夷山から茶師を呼び、指導してもらっているという。コストをかけているので、この茶が売れるのかどうか、価格が合うのかどうか、今後の推移を見てみたい。

 

雨が止まないので、昼ご飯をご馳走になりながら、待つ。こういう自然な環境の中で食べるご飯はなぜか美味い。腹一杯食べたが、それでも雨は止まない。仕方なく、食後の散歩を兼ねて、傘を差して、山道を行く。先ほど見た茶畑は製茶するために新たに植えたものだったが、山の中に野生茶があるというのだ。少し坂道を登っていくと、道の両脇に背の高い木が生えていた。それが茶樹だった。まさに大自然の中にいる、気持ちよい環境だった。

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雑草や他の木と混在している。真っすぐ立っている木も少なく、横に倒れかけているもの、木同士がもたれ掛かっているもの、など、まさに野生の木といった印象だった。だが、これは放棄地に見られる茶樹ではないのか。そう質問してみると、『実はここに生えている茶樹は1950年代、新中国建国以降、当時の人民公社の生産隊が植えたものだ。外貨獲得の手段として、福建省では政府の指示に基づき、いくつもの場所で植えられたが、そもそも生産効率の低い場所であり、更には文革などもあり、その後完全に廃れてしまい、放置されたようだ』との説明があった。

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もしそうであるとすれば、ここにある茶樹は、野生茶ではなく、野生化した茶、ということではないだろうか。日本や台湾でも、よく『自生』『在来』などというが、そのしっかりした定義はあるのだろうか。あったとしても一般に知られているのだろうか。中国でも同じであろう。現在の古茶樹ブームの影響で、このような放置された野生化した茶も、古茶樹として位置づけられ、売り出されていくのかもしれない。私にとっては古茶樹かどうかよりも、むしろ人民公社が植えたお茶という方がよほど興味深いのだが、それではお茶は売れないのだろう。

 

非常に足場の悪いところに生えている茶樹、しかも背が高いため、はしごをかけて摘むらしい。地元の人を雇って茶摘みをするようだが、そのコストは決して安くない。摘める量もかなり限られている。無農薬、無肥料をうたうことは可能だろうが、あとはお茶の味次第か。それよりも、この大自然の中に歴史的なお茶が植わっていることの方が観光資源かもしれない。リゾート開発で出来た道を利用して、この山の中にトレッキングなどの客を呼び込み、そこでお茶を飲ませた方が、高く売れるような気もするが、どうだろうか。

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そんなことを考えながら、山の中を後にした。大きな道路で彼らと別れ、車で福清の街に戻る。街中には大きなショッピングモールなどもあり、先ほどの大自然が懐かしくなってしまう。中国の発展は、当然ながら自然環境を破壊して成り立っていると改めて感じる。そして何よりもどこの街も同じようで特色がないのが、実に残念なことである。

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黄檗文化促進会に戻り、林会長に万福寺及び茶樹について報告し、お礼を言って別れた。彼らは大規模な日本訪問を計画しており、隠元禅師の足跡をたどるらしい。今後の活動にも注目していきたい。有り難いことに福州まで戻る私を車で送ってくれた。あっという間にさらに都会に福州が目の前に現れた。紅茶屋では魏さんが待っていてくれた。

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