安座間でインド料理
真っ暗な港でただ一つ、煌々と明かりが点くそのインド料理屋。中を覗くと家族連れなどお客が美味しそうにカレーを食べていた。わざわざこんなところでまで何故彼らは来るのか?ちょっと不思議。荷物を抱えた私は2階の民宿へ行く道を探したが、階段は1つしかない。ところが上がってみると普通の個人の家の玄関に来てしまう。これは間違えたと思い、階下へ戻るが、やはりほかに道はなし。意を決してその玄関を開けてみる。
今晩は、と声を帰ると、中にいた若者が出てくる。ここが民宿なのだという。民宿というより、個人の家に部屋借りするような感じだ。『オーナーは出掛けた』というと、私の部屋に案内してくれ、風呂の使い方などを丁寧に教えてくれる。そして『預かりものです』と言って差し出されたのは、私のヨーガマット。前回のヨーガ合宿の後、1年前に大学の先輩Nさんに預けた物を今日引き取り、明日ヨーガ合宿へ行く手筈を整えていたのだが。Nさんは7時頃わざわざここまでマットを届けてくれたようだ。電話してみると、もう別の会合に出掛けた、と言われ、今回会うことは叶わなかった。大変申し訳ないことをしてしまった。お詫びのしようもない。
若者はリビングでテレビを見ながら、レトルトカレーの夕飯を食べていた。この辺にレストランかコンビニはないか、と聞くと、『コンビニはバイクがないと無理っすね』という。やはりそれほどに辺鄙な場所なのだ。レストランもこの下のインド料理屋しかない、と言われ、かつ午後9時には閉まるらしい。慌てて食事を確保するため、下へ向かう。因みにこの若者は漁師になるため、大阪から来ていた。漁が少ないこの時期は他のバイトで繋いで、ここで暮らしているらしい。この宿には既に1か月滞在しているという。お客は彼一人しかいない。
インド料理屋には入ると、お客は全て帰っており、ひっそりしていた。カウンターに腰かけて、メニューを見、チキンカレーのセットを注文した。スタッフは3人、カウンターの向こうにいた大柄の男性はデリー出身のインド人。私の理解では世界のインド料理屋の多くはネパール人がやっているのでちょっと意外。
店長で日本語が流暢な男性はやはりネパール人。日本滞在は6年になるが、最初の3年は千葉県浦安付近のインド系が多いところで働き、その後は石垣島、そして今年からこの店に来たという。オーナーは日本人のこの店、彼にとっては沖縄が好きなのではなく、出稼ぎの場でしかない。沖縄本島や石垣島でも、インド料理は人気のようで、店が少ないので出店が続いているらしい。わざわざ那覇から車でここに食べに来る人が多いとか。大きなナン、カレーも美味で満足。まさか安座間港でこんなに美味しいカレーが食えるとは、世の中は確実に動いている。そして今回が3回目の久高島だが、毎回何らかの変化があり、今から楽しみになる。
2階に戻るとオーナーが帰ってきた。リビングでお茶を飲みながら少し話す。ここはオーナーの自宅で今も1室に住んでいる。以前は1階で居酒屋もやっていたようだが、その後は人に貸し、そして今年からはインド料理屋に貸しているのだという。部屋は5部屋あり、タイプはバラバラ。最近は内地から来る修学旅行生が、体験学習の一環で、このような民宿に泊まるとも言う。『修学旅行のシーズンは一般人の受付をしないこともある』ということで、今晩泊まれたのはラッキーだったのかも知れない。
というか、普段ここに泊まる人とは一体どんな旅をしている人なのだろうか。久高島に渡るだけなら、那覇からくればいい。外国人は気まぐれな欧米人が偶に来るだけらしい。ここにはWi-Fiも設置されておらず、バンコックを出てからまる1日、メールチェックすらできていない。仕方なく風呂に入り、寝てしまう。となりの部屋では、例の若者が何やら音楽を聞いている。やはり普通の家に泊まっている感じだ。
4月21日(火)
3.久高島
引き寄せられる浜、そして出会い
翌朝は早めに起きて、港の周りを初めて散歩。安座間のビーチなどへ行ってみるが、勿論誰もいない。沖縄としてはちょっと肌寒い気候だから、海に入る人などいるわけがない。久高行きの最初のフェリーの時間を確認したかったが、切符売り場は閉ざされている。その横で、久高へ持ち込む荷物の整理していた人がいたので、何とか確認できた。午前9時のフェリーに乗るべく、宿を8時40分に出たが早過ぎた。パラパラと乗船客が集まり、出航。波も穏やかで僅か12分で久高島に着いてしまう。いつものカーフェリーより格段にスピードが速い。
島に一人で上がるのは初めて。さすがに3回目なので宿泊する交流館の場所は分かるだろうと思ったが、最近進んでいるボケのせいか、はたまた過去人の後ろしか着いて歩かなかったせいか、ちょっと迷う。荷物を引き、ふらふらと歩いていく。何となく浜の方に引き寄せられていく。その浜はこれまで行ったことがない、名前も書かれていないところだった。ここに一体何があるのだろうか、やはりここは神の島、何かを告げているのだろうか。非常に興味が湧くが、気を取り直して道を戻し、何とか交流館にたどり着く。
交流館では既に午前中の講義が始まっており、ゆるゆると後ろの方の席に着く。今回も25名が参加しているが、初めて会う人も多い。途中参加だと自己紹介が聞けないので誰が誰だか分からない。そしてボケのせいで?過去にあった人も識別できないケースが出てくれる。休憩時間に『メールで連絡したんですけど』と言われる。何と私の今日の昼ごはんがないのだそうだ。え、っと一瞬思ったが、メールチェックはできなかったのだし、それもまた運命。港近くに食堂もあるので特に問題はないが、何となく波乱の予感。