沖縄久高島へ行く2013(2)神の島久高で

5月24日(金)

日本的な集合に目を見張る

翌朝は6時過ぎに起きる。朝食に降りていくと、既にヨーガ合宿参加メンバーはT隊長を中心にビシッと勢ぞろいで、食事をしていた。のこのこ遅れて行って恥ずかしい。『少し早いけど7時10分にタクシーに乗って』とT隊長に言われると、はい、としか言えない。え、県庁前8時集合ではなかったの?これがきちんとした日本の集合なんだ。一緒に連れて行って貰えるだけありがたい。

 

タクシーはちゃんと用意されており、殆ど荷物を詰める時間も無かった私はあたふたとチェックアウトし、乗り込む。全員の集合場所は県庁前。勿論10分で到着したので、30分以上、時間がある。出勤してくる県庁職員を眺めて過ごす。他に宿泊したメンバーも続々集まってくる。一人だけ来ない人がいて心配したが、忘れ物を取りに帰っていたようで、それでも8時前には全員集合して出発。まさに修学旅行のノリだ。

 

我々は久高島へ向かうフェリー乗り場を目指した。10時発のフェリーの乗るのに、8時40分には到着した。ところが切符売場には張り紙が。『10時のフェリーは欠航』と。次は11時半だそうだ。アジアを歩く私などは『そんなものか』と気にしないが、ここまで整然とした対応でやってきた皆さんは不満だっただろう。更にはその張り紙に『時間があるからセーファー御嶽でも見てきたら』と書いてあったらしい。如何にもアジア的な物言いだが、時間を潰す方法はそれしかない。荷物を預けていく。

 

セーファー御嶽へ

御嶽とは琉球の神が存在、また来訪する場所であり、祖先を祀る場でもあるとされる。地域の祭祀の中心となる施設であり、地域を守護する聖域として現在も多くの信仰を集めている。斎場御嶽は15-16世紀の琉球王国・尚真王時代の御嶽とされ、「セーファー」は「最高位」を意味し、「斎場御嶽」は「最高の御嶽」ということになる。

 

ターミナルから見上げた御嶽、実際に歩いていくとかなり急な坂道である。神職の最高位、聞得大君という女性が管理したとされるこの御嶽、来るだけでも大変だったのではないか。20分ぐらいかけて登る。山歩きのプロであるT隊長などはスタスタ上っていくが、日頃の鍛錬がまるでない私などは遅れて息を上げながら進む。

 

入口は世界遺産登録で整備されたのか、記念館のようになっており、説明がなされている。修学旅行生なども見学に訪れている。入場料200円。これは高くはないが、従来から信仰していた地元の人からも徴収したことで問題になっているらしい。確かに信仰の場が世界遺産になったからと言って、入場料を払うというのはどうなんだろうか。

 

御嶽は本来女性しか入れない聖域。だが私もずかずか入っていく。流石に自然に満ちている。元はもっと凄かったのだろう。鬱蒼とした林に神秘的な風が吹く。なぜか気持ちがハイになる。とても不思議な感じがした。特に一番奥、大きな岩が重なり合った隙間から向こうにある小さな場所。久高島が見えるその一角からは不思議な風が吹いてきた。久高島とこの御嶽が対になっていると分かる。

 

記念館前に戻ると、ふっと俗世に戻った。時間があるようでないような中途半端な体験をした。

大揺れのフェリー

フェリーターミナルまで歩いて戻る。下りは楽だが、脚が笑う。ようやくフェリーがやってきた。それほど大きくはない。乗船者も多くはない。後で聞けば『沖縄の人は久高にはおいそれと近寄らない。神の島だから』と言われて、複雑な気持ちになった。よそ者だから、知らないから気楽に入って行ける場所もあるということだろう。

 

船はするすると岸を離れたが、そんなに沖に出るわけではない。さっきの御嶽から見てみも、久高は目と鼻の先だ。ところがこれが意外と時間がかかる。そしてなぜか船が物凄く揺れる。船酔い者も出るほど、厳しい揺れが続く。これが神の島へ行く洗礼なのだろうか。

 

30分後、船は時化など何もなかったように久高に入る。徳仁港と書かれている。およそ私とは縁のない文字だ。港には迎えが来ていた。今回お世話になる島の交流館の人だった。だが前回参加者は荷物だけ車に乗せて歩いていくというので着いて行く。

 

3.     久高島

イザイホー

港から歩いて数分で交流館に着いた。港近くには数軒の家があったが、皆平屋でゆったりとした南国風な造りになっていた。交流館は、この島で団体が泊まれる唯一の施設。ここで5日を過ごすことになる。歴史資料館なども併設されており、楽しみだ。

 

先ずはランチを。前日から乗り込んでいたA師夫妻と共にまた港へ戻り、その脇の食堂へ入る。この島には食堂も数軒しかない。刺身定食を食べる。合宿参加者が次々やってきて注文するので、店では大忙しとなる。

 

次のフェリーでやってきた参加者を交えて、合宿が始まる。この合宿は朝の瞑想、アーサナに始まり、インド哲学、ヨーガ理論などの講義が1日2回あり、夕方には実技もある。夜も講義などがあり、1日目一杯、まさに合宿なのである。ネットをする時間すらあまりなく、夜早く寝て、朝早く起きる、理想的な生活が送れるのが良い。

 

この日は夜、久高島の神の行事、イザイホーなどについてのDVDを鑑賞する。500年も続く神事であり、12年一度、久高島で生まれ育った三十歳以上の既婚女性が神女(神職者)となるための就任儀礼。この島がなぜ神の島と言われるのか、それが少しずつ分かってくる。ただ1978年を最後にこのイザイホーは開かれておらず、来年2014年のイザイホーも中止の可能性が高いと聞く。適齢の女性該当者がいないのだそうだ。神の儀式を人間の都合で変えることはできない。

 

部屋は畳の3人部屋。沖縄在住のNさんは何と私の大学の一年先輩と分かり驚く。そういわれてみればこの名前には聞き覚えもある。次々に同窓生の名前が飛び交う。しかも私が親しくしている人3人が、何とNさんと高校大学が一緒というのだから、ご縁は深い。ただ明日も早いのでシャワーを浴びてすぐに寝てしまう。

5月25日(土)

久高島散歩

翌朝、2階の部屋で6時前に目覚める。鳥のさえずりが聞こえる。周囲に騒音はまるでなく、平穏な一日が始まる。下へ降りて、大広間へ行くと既に多くが瞑想に入っていた。私も真似ごとをしてみる。そのままアーサナ。朝からネットも見ずに行うと何と気持ちの良いことか。交流館では朝食はなし。皆持ってきたビスケットなどを食べる。これもまたよい。今どきの日本は何でも、きちんと揃えないと格好が悪いなどとなるが、食べたい人は食べる、余ったものは分ける、など参加者の交流の機会にもなり、よい。元々参加者にはヨーガという共通の話題があるが、これだけヨーガ漬けの毎日ではそれ以外の話題が欲しい。

午前中講義をこなし、今日の午後は楽しみにしていた久高島散歩ツアーに出る。Yさんという島の案内人が同行してくれる。このYさん、実に飄々としていて面白い。島を歩き出すとすぐに小学校がある。Yさんも卒業した学校だが、今は生徒数も少ないようだ。『学校の周囲に柵を作りしました。これは生徒が逃げ出さないためではなく、島の人が先生を監視するためです。悪いことをするのは大人の方なのです』とYさん。明快に解説する。

農地では『島の男は15歳になると300㎡の土地が貸与されます。50歳で返します。でも男は漁に出るので耕すのは女です。土地に不公平がないように30㎡ずつ10か所渡されます。作業は大変になりますが、公平とはそういうことです』と。何という原始共産主義?でも実にもっともな話だ。

家の石垣の所では『これは石がきっちり組み合わさっているプロの技です。島は豊かだったので、外から職人を連れてきて作らせました。その後「にっくき薩摩」がやってきて我々は貧しくなりました』と。この薩摩憎しは沖縄本島でも聞いた。基地問題で揺れていても『鬼畜米英』は出てこないが、薩摩は出て来る。これは相当に根深い歴史だ。

その後も神事が行われる久高殿などを見て回る。説明してもらわないとよくわからない建物が多い。村はそれほど大きくない。村の外へ出る。フボー御嶽へ向かう。ここはイザイホーなどの神事の際、女性だけが入れる空間であり、今でも男子禁制だ。ただ何となく林があるようにしか見えないが、『御嶽とは本土の「おんたけ」とは意味が違います。私は「気」のある場所と理解しています』と説明がある。

そして『島の木は枝一本といえども、勝手に切ることはできません。年に1回、木を切るために祈りを捧げて初めて切ることが許される。だからここの林は非常に雑多な木々が何の整備もされずに残っているのです。島の物は全て神の物です』と言われ、ハッとする。ここは普通の島ではない、昔々の日本が唯一残っている場所なのだ、と改めて認識する。

因みにこの御嶽には画家の岡本太郎がやってきたことがある。当時スランプだった岡本はここで何らかのインスピレーションを得たとされているようだ。凡人にはわかない、のではなく、もともと皆が持っていた感度が相当に下がったたために、今見ても何も感じないということだろう。

シマーシ、の浜を見る。きれいな海が広がっている。『ここには貝塚があります。5000年前の物だと言われています。当時から本州北部などから船で渡ってきた人々がいたということです』そう、陸とは違うのだ。海が中心なら、この島が中心であったかもしれない。

交流館の食事

交流館では1日2回の食事が提供される。これがまた何とも楽しみな島の料理だ。初日は海ぶどう丼だったし、ゴーヤーチャンプルや野菜のかき揚げなどの定番メニューもある。今日は地元の野菜を使った和え物、魚の天ぷら、ご飯は雑穀、吸い物も付く。毎回非常に多彩であり、しかも相当にヘルシーであった。島の人々の食生活の一端が見られてとても有意義。

 

料理してくれたのは島のおばあ、75歳だというが、とてもシャイでついに我々の前に顔を見せてくれることはなかった。この合宿は女性が圧倒的に多く、料理に関して色々と聞きたいこともあったろうに。残念だったが、そのつつましさがまたよい。私もそうだが、何でも人に教えたがるのは良くないような気がした。

 

毎回料理の説明をしてくれるのは交流館の若い女性。彼女は島の女性で、将来島の神事に携わる可能性があるという。これは素晴らしいことだが、本人にすればプレッシャーであろう。それほどに島の儀式は重い。

 

5月26日(日)

Nさんと

Nさんは元々横浜の出身だが故あって17年前に沖縄に移住してきた。今は大学で教えたりしているようだが、非常に好奇心が強い。というか、大学などで教えていれば様々な疑問がわくが、それをどう解決するかは一つのポイントなのだろう。Nさんとは初対面とは思えないほど、話が色々と出来た。特に例のさんぴん茶の話を持ち出すと『実はかぼちゃは南瓜と書くが、福建省あたりでは何というだろうか。「金瓜」ではないか』とNさんが言い出す。『中国語だろう』と言われても、どう見ても標準語ではなかったので、思い切って、福州人で日本語に堪能な友人にメールを送ってみた。

 

するとすぐに回答があり、『福州語ではぎんぐぁーで、アモイ語ではぎんぐぇー』だという。そう、「金瓜」だったのだ。Nさんは長年の懸案が分かってきたと喜び、『じゃあ、ゴーヤーは何故ゴーヤーというのか』という疑問にいたり、話し合うも回答が見いだせない。再度メールで尋ねると『苦瓜は福州語ではくうあで、アモイ語ではこーぐえー』との回答があった。かなり近づいているが、もしやすると潮州語あたりなのだろうか。ヨーガの合宿に来て、こんなことをやっているのも変だが、それはまたそれでとても面白い。

 

海ぶどう

同じ部屋にはもう一人Kさんがおられた。地方の銀行を退職され、今は様々な活動をされている。この久高ヨーガ合宿にも以前も参加されている大先輩だ。遥々新潟から来られていた。その道のりは結構長い。そのKさんは久高経験者として、皆さんのために大いに知識を披露して頂き、本日は海ぶどうを買いに行くことになった。海ぶどうを買いに行く、何だかワクワクするテーマだ。歩いて5分もかからない所にそのお店はあった。お店ではない、そこで養殖しているのだ。ビニールハウスでの直販である。

しかし中には誰もいない。皆勝手にいくつもある水槽を眺める。おじいさんがやってきたが、ここの人はお客さんか店の人かもわからない。何とも不用心な話だが、この島では何も問題は起きないのだろう。すごい。

しばらくしておばあがやってきた。皆海ぶどうの仕入れに熱心だ。日本人はこういう時にちゃんとリーダーが登場し、購入方法などをまとめて、皆に知らせている。これはすごいことだ。アジアではあり得ない。おばあは『昔は海辺でやってたんだがな。何だか最近はここでやっている』といい、『少し売れればいい』ともいう。さっきのおじいさんが、みんなのためにスイカを切ってくれた。畑からの取立てだ。するとおばあが『そんな若いのだめだ―』と一言。おじいさんはシュンとなる。

『若い頃はこんな言い方出来なかったサー』といい、おじいさんがご主人であることがようやく分かった。おじいさんは昔漁に出ていたのだろう。その間、畑はこのおばあが守ってきた。だから畑のことでは頭が上がらないようだ。この島のひとつの典型例を見た思いがした。

5月27日(月)

極楽浄土

翌朝は晴れていた。朝日が昇るのを眺めていた。それはいいもんだ。交流館の建物の前にある植物に鳥が巣を作っていた。珍しいなと思い、写真を撮り、Facebookにアップしたところ、その道のプロの方から、『そこは一体どこだ。鳥がこんなに人に近い所に巣を作るとは危険がないということ。余程の極楽浄土ではないか』とのコメントを貰った。やはりここは極楽なのだろうか。よく最後の楽園、などという表現があるが、楽園というか、自然の島、というか。

合宿も中盤を過ぎ、日程には慣れてきた。機械的にスケジュールをこなす、毎日同じことを繰り返す、一見つまらないようだが、これが人生かもしれない。人は時としてその繰り返しを嫌がり、脱線していく、のかもしれない。都会が楽しいと思う若者、田舎がいいと思う退職者世代。淡々とした人生を送ることは難しい。だからこそ、この島の流れの穏やかさは尊い。

昼ご飯の後、ビーチへ行ってみる。今日は珍しく1日晴れており、晴れれば日差しは相当強い。顔が一気に日焼けモードに入った。遠浅の海が眩しい。浜にはハマユウが花をつけていた。時間が止まったような空間の中、体だけがじりじりと焼けていく感触。



 

 

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