バングラディシュ・スタディツアー2011(3)イスラムの浸食とは

少数派 ラカイン族

そして9時過ぎに集合場所であるお寺へ向かう。お寺は先生の家から歩いて3分ぐらいと近い。実はイスラム教徒が90%を占める国、バングラディシュにおいて、極めて少数派であるラカイン族という仏教徒にお世話になっているのである。先生も、空港に迎えに来てくれて、全てを取り仕切ってくれているラショーもラカイン族なのである。

お寺は外の喧騒から外れており、静かな空間だった。階段で上に上がると、気持ち良い風が流れる一角があり、腰を下ろす。お坊さんがやって来て、中を見せてくれる。これも長年このお寺及び仏教徒に貢献してきたSさんのお蔭だ。

そもそも何故、ラカイン族との接点が出来たのか。それは1990年に森智明さんという現地でマラリアで亡くなったジャーナリストの遺志を継ぎ、友人であったS氏が中心となり、立ち上げたボランティア団体だった。学校の脇には森さんを偲ぶ記念碑が建てられており、長く学校を見守っている。

イスラムの浸食とは

そして今日の活動は学校の横の小山の上にあるパゴダ付近の掃除と決まる。お寺から学校の前を通る。するとどこからともなく、子供たちが出て来て学生の方に近づく。学生たちは学校の生徒だと思い、挨拶をし、交流が始まる。言葉は出来ないが、お互い何となくよい雰囲気になり、笑い声が広がり、学生から離れない子も出て来る。

ところがこの光景を苦々しく見ていたのが、お寺の坊さんと学校の先生。一体何故か。それはこの子供たちがラカイン族ではなく、イスラム教徒、ベンガル人だったからだ。彼らは何らかの理由でよそからこの土地にやって来て、お寺や学校の敷地に勝手に小屋を建て、住み始めていた。当然ラカイン族は面白くはないが、しかし少数派。多数派に押されて、黙っている。

学生たちはとても楽しく、仲よく遊んでいたが、途中でそれを遮られ、訳が分からないという顔をする。仏教徒でもイスラム教徒でも子供は子供。仲良くしてどこが悪いのか、という表情だ。その気持ちは分かる。そして彼らは気が付く。何故宗教間の対立があるのか、何故子供同士が仲良くできないのか。この問いは本来小学生の時にでも考えるべき課題だが、残念ながら日本ではその機会は与えられていない。彼らは突然襲ってきた難問に頭を抱えている。簡単に片づけようとしても出来ないだろう。

結局イスラムの子供たちはそのまま小山の上まで付いてきたが、さすがに仏教徒の大人に阻止され、途中で止まる。もし彼らの侵入を黙認すれば、翌日からどんどん小山に上がり、パゴダが侵食されていくだろう。現に他のパゴダでは、何と小山が削り取られ、とうとうパゴダが倒れた、という信じられない話も出た。まるで砂場の山崩し遊びのようだ。

なぜそのようなことが起こるのか。バングラディシュは国土に比して人口が圧倒的に多い。北海道2つ分に1.5億人、いるというのだ。そして悪いことに洪水も多い。家を失った人々はよそに土地を求めて入り込む。結果として少数民族の土地が侵される。勿論バングラにも法律はあるだろう。不法であることには違いない。しかし土地を失っている人々に配慮して、強制排除などの手段には出ないという。こうして、どんどん浸食が起こる。

パゴダ付近もゴミだらけだ。仏教徒はきっとゴミは散らかさないだろう。実に考えさせられる問題だ。結局この日はイスラムのお祭りの日と言うことか、ゴミ拾いも明日に延期となった。

しかしここで驚くべき事実が。今日はイスラムのお祭りの日であり、学生がボランティア活動をする小学校は休みであることが判明。しかも明日以降も休みかもしれないとのこと。どうなるんだろうか。日本の旅行社主催ツアーなら、ここでクレーム続出かもしれないが、Sさんは少しも慌てず、『こんなことは時々あるんだよね』と言い、学生達もそんなものか、と思っている。それが良い。

衣装作り

パゴダの小山から降り、お寺とお別れ。女子学生達のお楽しみ、地元の人が着る民族衣装を作りに行くというので、見学に行く。朝の散歩でも分かった通り、今日はイスラムのお祭りで通りの店はどこも閉まっている。が、表通りを一本入ったラカイン族のお店は普通にやっていた。

狭い間口の店に一気に10人以上の日本人が押し寄せたので、店内は身動きできなくなる。女の子たちはあっと言う間に生地に手を伸ばし、どれが似合うか、などと始まる。我々は店の人が座っている側にスペースを貰い、茶を飲みながら眺めている。

ラカイン族の民族衣装は何という名前か聞いたような気もするが忘れてしまった。上下セパレートで、同じ柄でも違う柄でも生地を買えば作ってくれるという。この辺の臨機応変さが良い。値段も500-600タカ。しかしそうなると選ぶのに相当な時間が掛かる。選んだ生地は2-3日で仕立てられるという。数日後にファッションショーがあるだろうか。

適当な所で失礼して、先生の家に戻る。昼ごはんの支度が出来ている。野菜とエビの入ったスープが美味い。野菜も軽く炒めている。ラカイン族の食事は実にシンプルで健康的。昔からの伝統が生きているのだろう。

(3)    二日目午後  ココナツオジサン

夕方まで予定はない。そこそこ暑いので昼寝でもするかと思っていると、既にテラスで昼寝している子がいた。先生の息子。何とゆりかごでお休みだ。これはいい。奥さんがゆっくりゆっくり押している。心地よさそうにスヤスヤ眠る。いいね、実に。

すると門からおじさんが一人、するすると入って来て、庭のヤシの木にするすると登って行く。一体誰だ、泥棒か、とも思ったが、白昼ヤシの実泥棒もないだろう。おじさんは実に鮮やかに木に登り、そしてお尻に付けていたロープを使い、ヤシの実をするすると地上に下ろした。

この技術は凄い。慣れているというだけではない、何かがある。そしてまたするすると降りて来て、ヤシの実の束を掴み、するすると門の方へ。門の外にはリキシャーが用意されており、摘みこむとさっと行ってしまった。

これは契約作業なのだろうか。ヤシの実は売れれば先生の家の収入になるのだろうか。家の人は誰一人見ていない、そんな中でこの仕事は信頼で出来ているのだろう。面白い。

 

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