西の果てカシュガルへ行く2012(3)カシュガル 実に楽しい街散歩

最も印象的な市場 シュウフ県

帰りに偶然見付けたカシュガル郊外の市場に寄る。ここは観光客が来るような場所ではなく、全くのローカル市場。それだけに人々の生活が見事に迫ってきた。日差しがあるとはいえ、寒い日、人々はアツアツの羊スープをすする。その美味しそうなこと。どうしても飲んでみたかったが、その後の予定から断念。

焼いた羊肉をグルグル巻きに積み上げた奇妙な食べ物にも出くわした。あれは一体なんだろうか。聞いてもよく分からなかったが、売っている家族の表情が実に明るい。いや、この市場に来ている人々全体が妙に明るい。日曜日に市場に来るのが楽しい、売る方も楽しい、といった雰囲気が流れている。

パンやお菓子や、日用雑貨まで、何でも売っている。ロバに大量の藁を積んで売っているのを見ると、何となく物悲しい気分にもなる。空き地では大勢の人が集まり、何かを取り囲む。見てみると、闘鶏が行われていた。ルールはよく分からないが、白熱している所もあり、賭けが行われているのかもしれない。

羊の売買も盛んに行われていた。羊を引っ張って来て、買い手を探す者。農業車に乗せて見せている者、真剣に羊を点検し、指値する者、流石羊が主食の地域だけあり、その賑わいと緊張感は、冬の大地に響く。

帰り掛けに市場に入り口でヨーグルトを売る女性たちを見掛ける。如何にも美味しいよ、という笑顔で我々に語りかけるが、言葉は通じていない。でも、何となく通じているような気分になり、心が和む。少数民族のローカル市場は何ともいいもんだ。

都市のバザール

お昼はまたいい雰囲気の店でローカルフード。羊肉入り包子。蒸籠の中の包子の上にナンを載せて、その汁を少し吸い取る。その後そのナンはシシカバブーの皿になり、我々の目の前に登場する。このナンの味が忘れられない。ナンには塩気があり、羊肉汁との融合が素晴らしい。しめに小椀のラグメンを食べれば、もう完璧。

午後はカシュガルの街中にあるバザールを見学する。こちらは物凄い人出で、迷子にならないか心配になるほど。先程の穏やかなローカル市場と異なり、人ごみで緊張してしまう。

ここでのお目当ては帽子。カシュガルの男性は皆帽子を被っており、帽子には相当の拘りがあるように見える。私とA教授は冬用の帽子を持っていなかったので、勇んで買いに走る。しかしあまりにも多くて、選ぶことが出来ない。結局私は適当な物を選んでしまったが、A教授は実にハイカラな帽子を購入。早速被って歩き出すと、周囲の人が皆振り返って彼を見る。彼が帽子を指さすと「いいね」という合図で指を立てて来る。これが一人や二人ではないので、驚く。確かによく似合っているのだが、それにしても何かある。

楽器や絨毯を売る店が多い。こちらは観光客もたくさん来るので、日用品と言うよりお土産物が多い。売り子も何となく座っている感じで、先程のローカル市場の楽しそうな明るさは全くない。こちらは仕事場なのである。

カシュガル老城

昨日は気になる一角があった。道沿いに高台があり、古ぼけた建物がいくつも見られる場所。そこはカシュガル老城と呼ばれ、1,000年の歴史を有する古来の街であった。古代カシュガルは疏勒(そろく)国と呼ばれていたが、10世紀に興ったカラハン朝の都がこの場所にあったという。

その王室の末裔たちが住み続け、その間人口も増えて行き、街は迷路のように複雑になっていった。まるで90年代に取り壊されるまで香港に君臨した治外法権後、九龍城を想起させる。現在も2000戸、1万人が暮らしていると説明板にはあるが、日中中に入り込むと人影はまばら。

その迷路を進むと古びたレンガの住居が並ぶ。継ぎはぎだらけの家、通路を挟んだ2つの家を上に板を通して繋いだ家。何となく郷愁をそそられる。家の入り口には木の門があり、その色やデザインは独特である。

偶に行き交う人も、我々を避けるように通り過ぎていく。観光客慣れしているのか、それとも何か訴えたいことがあるのか、その目は何となく沈んでいる。すっぽりベールをかぶった女性が薄暗い通路から出て来ると、アラブの国を歩いている錯覚にもとらわれる。

横を見ると一部取り壊しが始まっている形跡もあり、ここにも政府の意向が垣間見える。確かに耐震性の問題などもあり、建て替えた方が良いのかもしれないが、ここは歴史遺産であるから、本来であればきちんと保護すべきであろう。

街をふらふら散策すれば

その後は市街地を自由散策。ウイグルの街を歩いていると様々な物が目に入り、とても楽しい。ミシンを売っている店がある。今では日本では見ることが出来ない旧式のミシンとミシン台。自分が子供の頃を思い出す。

ケバブの焼き方も豪快で、煙がもうもうと上がって行く。お茶の時間なのか、その脇で老人が格好良い帽子を被り、茶をすする。お茶請けは焼き羊肉まん、肉汁がかなり出ていて、熱々で食べると火傷しそう。ナンを売る老人も格好良い。ナンの種類も豊富で、どれが良いか目移りしてしまう。鍛冶屋の老人が、路上で火をボウボウと燃え盛らせて、何や打っている。この街では老人の姿が多く、しかも元気が良さそうだ。

カシュガルは古来、西域の重要拠点。19世紀にはロシア、イギリスなどがこの地を巡って激しい駆け引きを繰り広げていた。グレート・ゲームと呼ばれている。文献にはロシア領事館、イギリス領事館が非常に立派であり、ここを行き交う旅人達が宿泊したとある。確か大谷探検隊のメンバーも泊まったと記憶する。その領事館は残っていないのか、地元で聞いてみたが、既に取り壊されているという。それでもロシア領事館のあった場所に案内される。今はその敷地を改造し、建物も完全に立て替えて、ホテルになっていた。100年前の外交にひと時、思いを馳せる。

カシュガルではどんなお茶が飲まれているのか、と聞くと、すかさず街中の店に案内される。店先には四角い形の黒茶が並んでいる。これを解して、そのまま飲むか、横にある薬草類を混ぜて薬用茶とするか。新疆では昔から肉を食べた後の消化を助けるほか、ビタミン補給のためにもお茶は欠かせない存在であった。特に薬用茶の効用により、長生きする人が多いとも言われており、単にお茶を飲むのではなく、生活の一部、いや重要な要素として茶を飲む。ただ新疆では茶葉は取れないため、多くは湖南省からの輸入。磚茶と呼ばれるレンガ上の形状は、輸送に便利であったから。尚伏茶の由来は夏の三伏から来ているらしい。

夜はエデンというおしゃれなレストランで食事をする。最近はこのようなおしゃれな高級なレストランが市内に多数オープン、富裕層に人気があるらしい。





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