新疆北路を行く2011(3)トルファン 風力発電とカレーズ

スパゲティーをイタリア人に教えたのは
そのレストランは1階と2階に分かれており、1階は庶民的、2階は豪華な感じであった。我々は真っ直ぐ2階へ。しかし2階ではちょうど従業員のミーティングの最中。開店前に入ってしまったらしい。外国人だからだろうか。

実はこのお店、S氏の知り合いが経営者であった。その経営者はやはりウイグル人で、しかも大阪に留学していたという。帰国後大学で教えていたが、辞めて友人とレストラン経営をはじめた。経営は順調かと聞くと「ボチボチですね」と日本語で答える。実に落ち着いた雰囲気。日本の料理を参考にしたか、と聞くと、サラダにわさびを入れただけとか。このサラダ、後で食べるとなかなか美味しい。

ようやく従業員が動き始めた。先ず大皿にスイカとハミ瓜が運ばれる。このハミ瓜は日本のメロンのようで本当に美味しい。どうしてこれを日本に輸出しないのか、と食べた人は皆思うフルーツ。ハミ瓜にかぶりつく。これは美味い。スイカも大きく切られていて、甘い。取り敢えず料理の前のフルーツ。そしてなぜか主食の麺が登場。

このラグメン、という名前の麺。麺にこしがあり、かつ上にニンジン、トマト、などの具を炒めた物を載せて、かき混ぜてから食べる。実に美味しい。まるでスパゲティーのようだと言うと、J氏が高らかに言う。「スパゲティーをイタリア人に教えたのはウイグル人である」、なに、それは初耳だが、確かにこの麺と具はスパゲティーである。説得力あるなあ。

更にJ氏は続ける。「ピザもイタリア人に教えた!」、えー、それは・・。しかし確かにピザの生地はある意味ではウイグル人がいつも食べるナンである。具もスパゲティーと同じような物か。それにチーズは山羊のチーズを使えば・・、ピザもできるね。これは驚きである。

そしてシシカバブ‐が登場した。このカバブー、羊の肉が実に柔らかい。塩味も程よく聞いている。うーん、この店は実にウマい。東京に出店欲しい、と伝えたがオーナーは、「日本でのビジネスは難しい。材料もない。ウルムチで十分」と断られた。

そして周囲を見てみるとビックリ。いつの間にか日が落ち、お客さんが集まっていた。皆いい服を着て、社交場のように集まっている。女性が多い。S氏によれば、「男性はラマダン中、各人の家に集まり、毎日宴会をしている。女性たちはレストランにやって来て、食べている」うーん、ラマダンのイメージは崩れる。面白い。

外へ出るとまだ完全には暗くなっていなかった。突然大きな音がした。道路を見ると車がぶつかっていた。そのぶつかり方が普通ではない。道のど真ん中で、前の車が急に左に曲がり、後ろの車がその横腹に突っ込んでいる。どうしてこうなるのか。両方の運転手が言い合いをしていたが、何故か警察は来ない。その内話が着いたのか、両車は何事もなかったように走り去った。

ネット騒動
長い一日が終わり、ホテルへ。荷物をM先生の部屋に預けており、それを引き取ってようやく自分に部屋に落ち着く。そして唯一の懸念、インターネット接続を試みる。が、普通ホテルの机の上にあるネットケーブルが出ていない。引出しにも入っていない。どうなっているんだ。ある程度以上のホテルでネットが繋がらないはずはない。

仕方なく、フロントに電話。しかし、「ネットケーブルが無いのなら繋がらないわね」とすげなく電話を切られそうになる。そんな馬鹿な、何とかしてと訴えると、「でもケーブルの予備はない」と言い放つ。訳が分からず食い下がると「じゃあー誰か見に行くから」と如何にも困ったといった感じで答えが来る。

そしてやって来たのはトランシーバーを持った警備のおばさん。私の訴えを聞いても、「なければ仕方がないわね」と帰ろうとする。そんな、何とかしてくれ、と再度叫ぶと「そんなに困っているなら探してきてあげる」と言って出て行った。

一体どうなっているのだろうか。ネットケーブルの予備が無いとは。お客の中にはケーブルを持ち去る人もいるだろう。その予備ぐらいは当然備えていなければいけない。顧客サービスの基本がなっていない。

5分ほどして警備のおばさんが戻ってきた。手にはやけに短いケーブルを持っている。繋いで見てくれというと「あたしは何にも分からない」と答える。じゃあーこのケーブルはどうしたんだ。「予備はないから、オフィスで使っていたケーブルを引き抜いてきてあげた」と言うではないか。これはトンデモナイことだが、私にとっては実に有難いことだ。

その短いケーブルを電話線ジャックに繋ぐと確かに接続できた。但し線が短すぎて机の上にPCを置くことは出来ず、荷物置きの上にPCを備えて何とかメールチェックした。それでもおばさんの行為には懐かしい何かを感じ、無性に感動していた。

8月13日(土)
(3) トルファン
時差の関係から日の出は遅いと思っていたが、北京時間午前7時過ぎには既に明るくなっていた。しかしホテルの朝食は8時から、今日の出発も10時からと基本的には新疆時間感覚で動く。ウルムチは日中の日差しは強いが、朝夕はだいぶ涼しく、気持ちが良い。

10時にJ氏、S氏そしてN嬢が登場した。N嬢は今年の3月まで横浜の大学の大学院に留学していた才媛。正直服装からしても眼鏡一つとってもウイグル人には見えない。彼女自身も「日本ではよく日本人に間違えられた」というぐらい。ウルムチでは目立つ存在か。7月から新疆財経大学に正式の採用になったとか。立派な先生である。

今日は元々列車で夜到着予定が昨日着いてしまったエクストラデー。協議の結果、トルファン日帰り旅行となった。車も急遽手配。観光シーズンで難航したが、何とかJ氏が確保してくれた。そのバンに乗り込んだのだが、S氏は「まだ朝ごはん食べてない」と車を街中に停める。ついでに水も確保して出発。

トルファンの風力発電
トルファンは中国でもっとも標高が低い場所。何と海抜‐154m。ウルムチからだと一気に1000m近く駆け降りることになる。片道2車線の道を車は軽快に飛ばす。天気も良い。絶好のドライブだ。

途中付近一面に巨大な風車のようなものが見えてきた。思わず車が停まる。何だこれは。白い羽がグルグル回っている。風力発電の設備がどうだろうか、数百台設置されている。確かにこの辺りは盆地で風が強い。風力には適しているかもしれないが、これだけの規模とは。流石中国。

現在中国全土には3万4千本の風車があると言う。この5年間で設備容量は20倍に伸び、アメリカを抜いて世界一になっている。しかし中国国内では内モンゴルが約3割のシェアを持ち、新疆は上位5位にも入っていない。恐らくは新疆内の電力は十分足りており、もし内地に電力を送ろうとすれば、送電線の問題があるのだろう。

思い出すのはお知り合いの経済作家黒木亮氏が「排出権商人」(講談社)執筆の為、単身ウルムチに乗り込んだ話。彼が見た風景もこれだったのだとようやく合点がいく。因みにこの本には私も色々と協力している。

観光客が見学するための博物館も建設中だ。これは中国が国家政策として推し進めているプロジェクト。実際に目の前で見ると壮大だ。もしこれで本当に電力が賄えるのであれば原発は不要なのだろうか・・。組み合わせが重要か。

中国人観光客が工事現場に足を踏み入れ、写真を撮っている。私も撮ろうと思い、踏み込むと何とそこは砂漠の砂。一瞬にして足が砂だらけになり、靴に砂が入り込む。これには参った。砂を落とそうにもそう簡単ではない。

カレーズ
180㎞、約2時間のドライブでトルファンに入る。先ず訪れたのが、カレーズ。カレーズとは地下水路のこと。イランでは「カナート」と呼ばれるらしい。トルファン名物のぶどう棚の下を通り、博物館へ。

博物館で一通り説明を見る。そしてそのまま地下へ。カレーズは新疆全体で1700本以上存在するが、トルファンだけで400本を超える。2000年の歴史を持ち、今でも一部農村では飲料、灌漑用水などとして使用されている。

この地下水路、2000年も前にどうやって作ったのだろうか。説明を読むと、勾配を利用していかなる動力も使わず、地下水を地上に組み上げていると言う。「トルファンの母なる川」と評されているが、それは本当にそうであろう。この水が農作物を育て、人々の生命を維持し、オアシスを繋いできたのである。

しかしなぜ地上ではなく地下だったのか。一つは極度の乾燥地帯であるため、地上では砂に水分を吸い取られること、もう一つは地表の塩分を吸った水は農業に適さなかったかららしい。この地区では富がたまれば水主になる、と言われていた。それ程水は重要だったのだ。水枯れはイコール滅亡である。

地下へ降りると、狭い空間があり、柵が施された僅かな合間に水が流れている。我々が狭いと感じるのであるから、この工事をした人々は大変な苦労をしただろう。治水とは命懸けであり、それほどまでに重要である。

上に上がると明るい陽射しに包まれて目がくらむ。外では民族衣装を着た女性がブドウジュースを販売。飲みたかったが・・。ウイグル人にとっては観光地でジュースなど飲みたくないだろうな。駐車場脇に水が流れている。見るときれいな水だ。思わず降りて手を洗う。少し冷たく、そして心が洗われるような気がした。

 

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