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NHKテレビで中国語コラム『アジアで中国語を使ってみた』2013年4月号第1回『バンコク』

第1回『バンコク』

今月から、アジア各国で中国語(※)がどのように使われているか、みなさんがアジアを旅したら、中国や台湾以外で中国語がどんな場面に使えるのか、をお伝えしていきたいと思います。

連載第1回はタイの首都バンコク。南国の温かい雰囲気、なんとなくホッとするほほえみ、日本人にもなじみのある、アジアの人気都市ですね。この街にはヤワラートと呼ばれる大きなチャイナタウンが王宮近くにあり、その歴史は200年を超えています。実に多くの人々が中国本土から海を渡り、ここバンコクで米などの産物を扱い、富を築いており、今も多くの家や商店が軒を並べています。

当然中国語は簡単に通じると思ったのですが、実はこの地に住む華人(中国系住民)の半数以上は現在の広東省潮州市付近から渡って来た潮州人で、その主言語は潮州語です。

しかもタイの場合、他国と異なり華人とタイ人の同化が非常に進んでおり、華人であっても、漢字の名前を使う人は稀まれで、2世、3世となるにつれて、生活習慣もタイ化し、タイ人と見分けがつかなくなっています。それでも昔から中国と商売をしている商人、また最近は多くの中国人観光客への対応から、中国語を話せる層もある程度いますので、一度は訪れ、お土産物を物色しながら、話しかけてみると面白いかと思います。

またヤワラート以外にもバンコクには華人が住む地域がいくつかあります。その1 つクロントイ地区には大きな市場があり、昔から華人が運送業や商業を営んできました。この辺りのお店の看板には漢字が併記されている所が多く、中国風のちょうちんが飾られるなど、中国的な雰囲気が漂っており、意外なほど華人がいるのです。

筆者が好んで通う小さなレストランのオーナー・黄さんは1946年、12歳の時に広東省汕頭(スワトウ)より一家5人で船に乗り、7日間かけてはるばるバンコクにやってきた「客家」です。客家は独特の文化・言語を持つ中国の移住集団とも言われ、東南アジアへも多くが渡って来ています。バンコクにも多くの客家人がおり、潮州人と並んで一大勢力を築いています。黄さんが1つ1つ思い出しながらぼつぼつと話すその波乱万丈の、苦難に満ちた人生を、おいしい客家料理を食べながら中国語で聞く、何だか自分も歴史の1シーンに紛れ込んだ気分になってきます。

最近タイの経済成長を背景に、中国本土から新たにタイへ渡ってくるニューカマーもかなり増えています。バンコクには、彼らが投資して作った本格的な中国料理店(本土の中国人を対象としている店)が出来てきています。店員さんは中国本土またはタイ北部チェンマイあたりの出身者、中にはミャンマーから出稼ぎにきた華人もおり、中国語が常用語として使われています。ここは本当にバンコクかと思うほど中国をそのまま持ち込んだ辛い四川料理や水ギョーザを出す店もあり、驚いてしまいます。バンコクで中国語を使って料理をオーダーし、本格的な中国料理をリーズナブルな料金で味わう……、何となく話のタネに行ってみたくなりませんか。

NHKテレビで中国語コラム『香港現地レポート』2012年9月号第6回『香港のお茶』

第6回『香港のお茶』

香港のお茶というと皆さん何を思い浮かべるでしょうか。とても香りのよいジャスミン茶、それとも茶色が濃く味わいの深いプーアール茶でしょうか。中には午後いただくアフタヌーンティーの紅茶を思い出す方もいるでしょう。いやアフタヌーンティーの場合、香港でのメインはふんだんに出てくるスコーンやケーキになるかもしれません。香港では英国式紅茶が多く飲まれていると思いがちですが、紅茶専門店は殆どありません。

実は香港人がいつ頃からお茶を飲んでいたのか尋ねても答えが見当たりません。またどんなお茶が好まれていたのかも資料があまりないようです。茶葉を売る店舗を開いて50年以上になる茶荘のオーナーたちに、しかたなくヒアリングしてみました。すると意外にも……。

ちなみに日本人は飲茶をお昼に食べる物と思っている人が多いようですが、伝統的には朝いただきます。広東省ではヤムチャ(飲茶)を『早茶』と呼んでいるほどです。香港に旅行に行った外国人が飲茶を食べに行くと多くの場合、お店の人はジャスミン茶かプーアール茶を勧めます。

ところが横で食べている地元の人のカップには別のお茶が入っていることが多いのです。この白茶と呼ばれる緑茶に似た微発酵のお茶が好まれる理由は、すっきりした味わいであることと値段が安いことではないでしょうか。今度もし香港でヤムチャに行く機会があったら、白茶の一種である寿眉茶を注文してみてください。きっと一目置かれますよ。

また潮州系、福建系の人々には自宅でお茶を飲む習慣はありましたが、焙煎の利いた濃い目の鉄観音などが好まれていたようで、茶荘でもこの手のお茶が長く売られています。今でも潮州料理店などでは、工夫茶と呼ばれる、小さな茶杯に濃くて少し苦いお茶が出されますので、一度味わってみるのも面白いかもしれません。

香港ではこれらのお茶以外にもさまざまなお茶が飲まれてきました。お茶ひとつとっても歴史が感じられます。ただ現在ではアメリカ系コーヒー店がチェーン展開するなど、多くの香港人のコーヒーを飲んでいる姿が、お茶の存在を脅かしています。ちなみに10年ほど前まで、香港には日本にあるような喫茶店が殆どなく、コーヒーはホテルのコーヒーショップに行かなければ飲めないと言われたほどでしたので、この変化には驚かされます。変わっていく香港と変わらぬ香港、やはり香港は継続的に見ていかないとついていけませんね。

NHKテレビで中国語コラム『香港現地レポート』2012年8月号第5回『香港島暮らし』

第5回『香港島暮らし』

香港というと香港島と九龍半島先端の高層ビル群、そして煌びやかな夜景を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。確かに凝縮された近代都市というイメージが相応しいかもしれませんが、実は香港には230余りの島があり、自然豊かで昔ながらの生活がそこにはあるのです。

筆者は駐在員時代、香港島に住んでいましたが、今回の滞在ではこれまでと違う体験ができることもあり、敢えて香港島から25分フェリーに乗るラマ島に住んでみました。ラマ島は人口約6,000人、ランタオ島、香港島に次ぎ香港で3番目に大きな島です。島に二つあるフェリーターミナルを結ぶ道はハイキングコースとなっており、週末ともなれば、運動不足解消、自然との触れ合いを求めて多くの人が島を訪れ、歩いた後は安くて新鮮な海鮮料理を楽しむ光景がよく見られます。

島の特徴の一つは何と言っても自然が多いこと。ここは香港かと思うほど、多様な亜熱帯の木々や草花があちこちに見られます。そして何とこの島には原則普通車が走っていません。救急車など緊急車両はありますが、住人は徒歩か、自転車となります。また荷物を運ぶ専用車としてVVと呼ばれる村の車が走るのがユニークです。

住人も多様です。自然環境を愛する欧米人も多く住んでいますし、インド系、アフリカ系など人種もいろいろです。島の店では「普通話」も英語も大抵の所で通じます。香港島より遥かに国際的と言えましょう。日本人も数十人住んでおり、何とその中に昔一緒の職場で働いた女性がいたのには、世間の狭さを感じました。

住んでいるのは人ばかりではありません。都会では飼いにくい犬や猫などペットも多く見かけます。自然の中で伸び伸びと散歩する犬を見ると幸せだなと思えます。そういえば、ペットも時々香港島へお出かけするらしく、フェリーの前方2列はペット優先席になっているほどです。

筆者が住んだ場所は、香港の古い友人が育った実家。フェリーターミナルから徒歩20分以上かかりますが、何と目の前はキレイなビーチ。夕暮れには実に優雅に陽が沈んでいきます。しかしビーチの向こうに見えるのは火力発電所。こんな光景は香港らしいかもしれません。

勿論いいことばかりではありません。自然が多ければ虫も多く、結構格闘したりします。また暑い日ざしの中、ターミナルまで往復50分のハイキングはかなり堪えます。夜お酒を飲んで島へ帰るとタクシーに乗りたくなります。でもこの島の生活はある意味、人間の本質を突いており、エコや節電などの要素が満載です。ご興味あれば、是非一度訪ねてみてください。

NHKテレビで中国語コラム『香港現地レポート』2012年7月号第4回『香港の物価』

第4回『香港の物価』

「香港に住むのは大変でしょう、物価が高くて」、香港を知る多くの日本人からよくこんな言葉を掛けられますが、筆者の答えは「いえ、家賃さえなければ、それほど高くはありませんよ。食べ物などはむしろ日本より安いと感じます」と
いうものです。

広い広い中国大陸からみれば、まさに猫の額のような場所に700万人以上の人がひしめく街、香港。当然その不動産価格は高く、最近の統計では駐在員の家賃が世界一高い場所、にも輝いています。庶民は高層の古いアパートで、本当に狭い生活を余儀なくされています。家賃は東京よりも高く、住居の質も落ちる、というのが一般的な感覚です。

香港は世界の貿易港であり、国際金融センターの一つでもあり、投資マネーの往来も激しく、その不動産価格も世界情勢に左右される面があります。近年は中国経済の台頭によって、中国マネーが香港不動産にもドッと流れ込んできており、その価格を押し上げています。

実は為替レートが原因です。香港ドルは米ドルに実質的に連動するペッグ制を採用しています。最近は円高、ドル安が続いており、日本円は香港ドルに対してもここ3年で20〜30%高くなっていますので、日本円換算で考えると実際の値上がり感があまりありません。

同じことが中国大陸から来る人にも言えます。筆者が香港に駐在していた2000年代の前半、香港ドルは人民元より数%高かったのですが、現在では人民元の方が20%程度高い状況となってしまったのです。昔は香港に買い物に来る中国人と言えば、高級ブランド品を買う富裕層のイメージでしたが、今では日用雑貨が大陸より安く買えるケースもあり、広東省などから毎週、香港のスーパーへ日常の買い物に来る人が急増しています。

一方香港ドルで給料をもらう平均的な香港人の生活は物価上昇をまともに受け、厳しくなっています。以前は広東省にセカンドハウスを買い、週末はそこで過ごすなど、羨ましい生活を送っていた人たちが筆者の部下にもいましたが、今では「大陸は高くて、ほとんど行っていない」と答えています。

いずれにしても他のアジア諸国同様、香港の物価は上がっています。上がっていない国は日本ぐらいではないでしょうか。円高は悪い面ばかりではありません。香港への旅行を検討してみてはいかがでしょうか。ただ、ホテルは安くありませんが。