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NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年12月号第9回『インドと中国の融合で 出来たカレー』

日本の国民食と言えばラーメンと並んでカレーライスでしょうか。しかしカレーは中国ではなく、インドの発祥だろう、このコーナーとして取り上げるのは適当ではないでしょう、という声が聞こえてきそうです。それでも敢あ えて今回、取り上げてみたいと思ったのは、個人的にカレーが大好きだということ以外に、以前中国人にも関係のあるカレーを食べた経験があったからです。

確かにカレーはインドに起源があり、インドに入っていったイギリス人が今のカレーライスのようにして食べたと言われています。18世紀以降、そのイギリスはインドの他、アジア全域に進出し、いくつかの国を植民地にするなど、その影響力を発揮しました。イギリスの影響下にあったマレーシアやシンガポールにはインド人と中国人の移住者もそれなりに多く、そこで食べ物の融合が起こったのではないかと筆者は勝手に想像しています。

マレーシアやシンガポールで現在出会うインドと中国の融合した料理と言えば、「フィッシュヘッドカレー」でしょうか。魚(鯛たいの一種)の頭を野菜と共にカレーの中で煮込んでおり、酸味のあるタマリンド(マメ科の常緑高木)の風味があります。インドカレーと中国人が使う魚の頭を混ぜて煮込む、如何にも豪快な料理です。魚の出だ汁しとカレー、ご飯にかけてもよし、パンをつけてもよしで満足できる一品です。

お隣タイにはグリーンカレーがあります。ただこれはカレーというより香辛料の利いた煮物のような物で、便宜上カレーと言っているに過ぎません。ただタイ華人の間ではフィッシュヘッドカレー同様にカレー粉を使ってエビやカニなど海鮮を混ぜて作るパッポンカリーという人気メニューがあります。バンコクの中華系のお店でよく出され、観光客も在住者もこれを目当てに来る、と言われるほど美味しい食べ物です。中華鍋に具材を入れて炒め、さっとカレー粉や唐辛子など入れて、実に簡単に作ってしまう、まさに中華なのです。

では本家の中国はどうかというと筆者の経験では中国国内ではカレーは食べられていませんでした。最近は日本式のカレーが進出し、多くの人が口にしていますが、インドから仏教は伝わったのになぜカレーは伝わらなかったのか、という疑問は残りますね。

ただ香港で昔「魔窟」と言われた九龍城の近くで、実に美味しい羊バラ肉カレーを食べたことがあります。清真料理(ムスリムの料理)を提供するレストランで出されている「咖哩羊腩」(羊肉のカレー煮込み)という物で、骨付きの羊肉の塊が豪快に入っており、香辛料が利いていて、絶品でした。この料理がどこから入ったのかは不明ですが、新疆ウイグルでは食べたことがないので、恐らくは海路インドか東南アジアから流れてきた物かと推測しています。

確かにカレーは中国料理ではありませんし、チーズなどと同様、食材として使われることもありませんが、アジアでの中国とインドの融合、これは見逃せません。皆さんも是非アジアへ行き、各地にあるカレーを探して味わってみてください。一味違った旅になること、請け合いです。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年11月号第8回『日本式ラーメンと アジアの麺料理』

友人の中国人から「日本人は何であんなにラーメンが好きなんだ」と聞かれたことがあります。そばやうどんもあるのになぜと、どうしても理解できないようでした。本当の理由は定かではありませんが、麺やスープの種類、日本各地のご当地ラーメンを見ても、拘こだわり好きな日本人には格好の題材だったのかもしれません。そして今ではアジアの主要都市に日本式ラーメン店が列をなしており、日本食の象徴のように見られています。

ラーメンは勿論中国の発祥。名前の由来はいくつもあるようですが、筆者は「拉麺」だと思っています。中国語の“拉”は「引っ張る」ですよね。現在中国国内で有名な拉麺といえば、蘭州拉麺。現地に行くと確かにマジックショーのように麺を伸ばしていたりします。この麺、とてもこしがあって美味しいです。因ちなみに蘭州では拉麺は朝食べるものだそうで、「飲んだ後にラーメン」と夜行っても食べられません。実はアジア各地でも麺は朝食、というところが意外に多いようです。

日本ではラーメンは元々中華そばなどと呼ばれて華僑が持ち込み、中華街などで食されていました。ただアジアへは日本発の「インスタントラーメン」という形で出て行きましたね。便利で安くて美味しい、今やアジアのどこへ行ってもカップ麺、袋麺ともにある種の主食と化しているほど発達しています。

韓国でプデチゲという鍋を食べていたら、最後にインスタント麺を入れていました。プデとは部隊という意味のようです。香港では日本のインスタント麺の名称がメニューに載っており、その上に具をトッピングして提供されています。

マレーシアの屋台で汁麺を頼んだらインスタント麺か生麺か選べ、と言われたこともありました。箸を使わないモンゴルではフォークで食べられるように麺が短くなっています。

食べ物の屋台が所狭しと並ぶタイのバンコク。こちらでも様さまざま々な麺が食されていますが、比較的ラーメンに近いのはバミーと呼ばれる小麦卵麺でしょうか。日本のラーメンのように叉焼などを入れるものもありますが、魚のすり身団だん子ご や野菜、鴨かも肉など、具のバラエティーが豊富で楽しめます。東南アジアではパクチー(香菜)が入ることもありますので苦手な方は気をつけてくださいね。

またスープの味付けもベースは鶏ガラなどで取りますが、日本と違い最後は自分の味にするため、調味料を混ぜます。意外とこれで失敗することもありますので要注意です。またタイではテイクアウトの文化が発達しているのですが、何とバミーなどの汁麺をビニール袋に入れて持ち帰り、家で椀わんにあけて食べることもよく行われています。ジュースもペットボトルが普及するまではビニール袋でしたから驚くことはないのでしょうが、うーん。

なお日本ではそばやラーメンを食べる際、音を立てて麺を吸い込みますが、アジアでは原則これは礼儀に反するようです。屋台などで周囲がガヤガヤしていたとしても、音は立てずに静かに楽しみましょう。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年10月号第7回『春巻きは春に巻くもの』

餃子(第6回)が出たら次は春巻きかな、今回は点心シリーズ第2弾としたいと思います。春巻きも非常にポピュラーな食べ物ですが、アジアへの広がりという意味では、餃子よりもむしろバリエーションがあるような気がしています。

春巻きは広東料理の1つであり、春の初め、豚肉と立春の頃に採れた野菜などを小麦粉の皮で巻いて揚げた物。名前から見ても春巻きは春を告げる食べ物だったと言えます。なお中国北部では春餅と呼ばれる食べ物がありますが、これは具を自ら取って巻き、そのまま食べる方式で、やはり旧暦2月頃に食べられていました。

日本人が飲茶でオーダーする定番は焼売、蒸し餃子、そして春巻きでしょうか。飲茶の本場香港でも春巻きは定番メニューですが、日本とは大きな違いがあります。日本では醬しょうゆ油をつけるのに対して、香港ではウスターソースをつけて食べるのが一般的なのです。最初は戸惑うでしょうが、これが意外に美味く、慣れると癖になります。

ソースと言えば、先日インドのムンバイで食べた春巻きにはケチャップが一緒に出てきて驚きました。インドの人々はまるでフライドポテトなどスナックを食べるような感覚で、ケチャップをつけて食べていましたが、これも立派な中華メニューでした。因ちなみにインドの春巻きは焼きそばの具(キャベツ、ニンジン、ピーマンなど)が詰まった感じで、ベジタリアンでも食べられ、しかもかなりの大きさでした。そういえば形は違いますが、サモサ(インド料理のひとつ)も春巻きの変形なのではないでしょうか。

アジアへの広がりとしてよく言われるものに、ベトナムの生なま春巻きがありますね。ところが正直にいうとベトナムを歩いていて生春巻きを見ることはあまりありませんでした。やはり揚げた春巻きが主流です。生春巻きはライスペーパーで巻くこともあり、現地でも春巻きではなく「夏巻き」と呼ばれて、別物扱いと聞きましたが、どうでしょうか。

ベトナムの春巻きは福建省あたりの潤餅と似ているという話もありました。潤餅は福建や台湾の屋台などでよく見られる食べ物。鉄板で小麦粉の生地を焼き、そこに具を巻くもので、台湾風春巻きなどとも呼ばれているそうです。潤餅は海を渡ってフィリピンやインドネシアにも流れていき、ルンピアと呼ばれるようになり、普及したという話もあります。また潮州系華人が多いタイでは潮州料理の「薄餅」がポッピアと呼ばれる蒸し春巻きとして広がり、屋台料理としてよく食べられています。東南アジアにはよくフィットした食べ物と言えるでしょう。

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なお春巻きの変形として、中国では浙江省あたりの宴会の最後に、甘い餡子を包んで揚げたデザートが出てきた記憶があります。味の濃い料理の後に食べるとさっぱりとして、とても美味しく感じられました。

春巻き1つ取ってみても、なかなか奥が深いと感じませんか。アジアを旅する中で、1つの点心をテーマに各地を見ていくというのも面白いかもしれませんね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年9月号第6回『バクテー(肉骨茶)』

今回は皆さんにはあまり馴染のない料理を紹介したいと思います。その名はバクテー(肉骨茶)といい、主にマレーシアとシンガポールで食べられている鍋料理です。「お茶」と聞くとすぐに反応してしまう筆者は、かなり以前にクアラルンプールのチャイナタウンで初めてこの名を目にして、朝から注文してみたのですが、何と「お茶は入っていない」というのでがっかりしたのを覚えています。おまけに味は漢方薬臭い、うーん、何だか残念な気分で、その後この食べ物に手を出すことはありませんでした。ところが先日シンガポールで知り合いに勧められ、久しぶりに口にしてみると意外なほど美おい味しかったので、取り上げることにしました。

「肉骨茶」を「バクテー」と読むのは、福建の言葉。福建では本当に様さまざま々な美味しいものが作られていますが、この料理も福建の土鍋料理から来たようです。マレーシアに移住してきた福建人が、削落としきれなかった豚肉が付いた骨を使い、大茴香や桂皮、胡椒などの漢方の生薬と醬油を入れて煮込んで作ったもので、主に貧しかった肉体労働者の食べ物だったということです。因ちなみに名前に茶が付くのは「スープの色が烏龍茶のように濃い褐色だから」と言われました。

シンガポールで人気のお店に行くと、ランチに行列が出来ており、テーブルは外まではみ出していました。お味の方はスープにニンニクが効いており、肉も骨に十分に付いていました。昔のイメージはいっぺんに吹き飛んでしまい、最後までスープをすするほどでした。地元の人から観光客まで、皆笑顔で食べていました。因みにこのお店、ランチの忙しいとき以外は、お茶を注文してゆっくり過ごすことも可能のようです。今や日本よりかなり高い地価の国シンガポール、バクテーの代金もどんどん上がっているようでした。

一方本家を自称するマレーシア。相変わらずチャイナタウンなどでは昔ながらのバクテーを試してみることも可能ですが、繁華街のブキッビンタンあたりにバクテーの美味い店が出来ているとのことで連れて行ってもらいました。オープンスペースに心地よい風が吹く夜、中国をはじめアジア各地からやってきた観光客、ビジネス客が中国語を使って、楽しそうに会話していました。

ここのバクテーは、シンガポールの物より濃厚な感じで、オリジナルに近いと思われますが、それでも漢方薬の臭みなどは消されており、食べやすくなっていました。ご飯を頼んで汁をかけて食べるのも美味しいですね。そして一番驚いたのは、最近流行り始めたというドライバクテー。これは汁なし、ということですが、肉に汁の味がよくしみ込んでおり、絶品でした。豚肉の好きな中国人の口に合うようにできています。ご飯のおかずとして美味しく頂きました。

因みにマレーシアは人口の60%以上がイスラム教徒で豚肉を食さないため、バクテーはあくまで華人のための料理でしたが、最近では海鮮、鶏肉などを使ったバクテーも出てきたようで、今後はアジアに広がっていく可能性も感じられまた。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年8月号第5回『あまり変化していない餃子』

日本に来た中国人が確実に驚くことの一つに「ラーメン・半炒飯・餃子セット」というものがあります。中国料理屋さんのランチメニューなどにあるものですが、中国ではほぼ間違いなく、この食べ方をする人はいません。なぜならこの3つは全て中国では主食に当たり、日本でいうなら、ご飯とパンと麺だけを一緒に食べるようなものだからです。中国では餃子はご飯(炊いたお米)と同じ扱いなので、ご飯にするか、餃子にするかの選択を迫られることがよくあります。

「それにしても日本人はどうしてあんなに焼き餃子が好きなんだ?」と中国人に聞かれることが何度もありますが、いまだに答えは見いだせていません。1980年代に筆者が上海に留学していた時、どうしても餃子が食べたくて、一流ホテルのレストランに行くと、餃子と言って出てくるのは水餃子ばかり。「焼き餃子」といくら言っても通じませんでした。「焼き餃子」は中国では「鍋貼」と言って、前日残った水餃子を翌日鍋に入れて油で焼いたもので、つまり日本人は残り物を再利用したものをわざわざ食べている、と思われたようでした。勿論今の日本の焼き餃子は再利用ではありませんが。

日本と中国の餃子の違いで大きいのは、具にニンニクを入れるか入れないかでしょう。中国ではニンニクの代わりにニラを入れているケースもありますが、必ずしも全てではありません。というより、中国の水餃子の具の種類は数十種類にも及び、どれを選んでよいか本当に迷います。また日本では注文は1皿単位ですが、中国では注文する時に「餃子半斤(250g)」などと重さで言うので慣れが必要です。

そもそも餃子を日本ではなぜ「ぎょうざ」というのでしょうか。留学中に訪れた山東省は餃子の故郷ですが、ここの方言で「ギャオズ」と聞き取れました。現在の中国東北地方には以前山東省から移住した人が多く、恐らくは旧満州でこれを聞いた日本人が戦後日本に持ち帰ったものと推察されます。

それでは、餃子は他のアジア諸国ではどのように食べられているのでしょうか。意外にも餃子は各国でそれほどの変化を見せていないようです。マレーシアでもインドでもさほどの違いは見られませんでした。

タイでは餃子のことを「キアオ」と呼び、スープ麺の中に入れて食べることが多いようですが、作り方はほぼ同じです。恐らくは中国から華人が持ち込んだものなのでしょう。そして何と焼き餃子のことを「ギョウザ」と呼ぶそうで、日本から入った外来語とも言われているとか。因ちなみに韓国でも「キョジャ」と言われていたと思います。

またタイでは揚げ餃子をスナックとして、甘いソースをかけて食べます。これは揚げ物文化が中心の東南アジアで発達した餃子の食べ方かもしれません。餃子はアジア及び世界に広がりましたが、おかずではなく主食であることから、その変化は意外に少ないということでしょうか。中国の影響がそのまま伝わっている餃子は、家族総出で作り、食べるものでもあり、非常にアジア的な食べ物と言えますね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年7月号第4回『アジアの焼きそばを食べ比べ』

焼きそば、これもまたシンプルな食べ物ですね。筆者が一番好きなのは実は日本のソース焼きそばかもしれません。それは置いておいて、中国でも「炒麺」は非常にポピュラーな食べ物ですが、例えば日本の中国料理屋さんにある五目あんかけ焼きそばや油で揚げた麺の上にあんをかけるかた焼きそばなどは中国ではほとんど見られません。北京駐在中、日本から出張で来た人が「かた焼きそばが食べたい」と言いだし、困ったことをよく覚えています。

五目あんかけ焼きそばに近い麺は、福建省にはあったと思います。恐らくは炒飯同様、福建から台湾経由で日本に伝えられたのではないでしょうか。長崎の皿うどんなどもこの列に入るかもしれません。長崎と言えば、「長崎ちゃんぽん」の語源は、沖縄の「チャンプル」にも繋つながる「混ぜる」という意味があるとの説があります。

福建省から派生した焼きそば、と言えば、シンガポールやマレーシアでよく食べられているホッケン・ミーがありますね。ホッケンは福建のこと、ミーは麺ですね。福建麺、これはアジア各地で使われている言葉ですが、少しずつ内容は違っているようです。シンガポールのホッケン・ミーは黄麺と呼ばれる太い卵麺にエビやイカなど海鮮を入れて炒めます。シンプルで食べやすく、現地のフードコート「ホーカー」に行けば味わえますね。

因ちなみにエビの殻のだし汁で作るエビ麺というものを見たことがあります。普通は汁麺ですが、このだし汁とビーフンを炒めるとピリ辛の絶品料理になりました。何故エビの殻でだし汁を取ったのか聞くと、ある華人に「日本軍に占領されていた時代、エビそのものを食べることができなかったから」と言われ、返す言葉がありませんでした。

マレーシアへ行くと、黄色い太麺を使い、豚肉、キャベツなどを入れるため、日本の焼きそばに似ていますが、黒酢などを使うので、色合いが濃くなり、味も独特です。炒める途中に卵をポンと割って入れると味がマイルドになり、いいですね。

これとほぼ同じような焼きそばをインドでも見かけました。コルカタの路上で人だかりがしているところがあり行ってみると、何とチャウメンという名で売られていました。チャウメン=炒麺、そのままですよね。卵を入れると代金が2倍になりましたが、カレーに飽きた身には美味しかったですね。インド人にも人気の焼きそば、面白いです。

ついでに言うと、インドには「ハッカヌードル」という焼き麺があります。野菜たっぷりで、ベジタリアンの人々向けに動物性のだし汁を使わずに作るようです。ハッカは客家のことだと思われますが、なぜこの名前が付いたのか、いろいろと聞いてみましたが、誰も答えてはくれませんでした。

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この他、ビーフンを使って炒めるタイのパッタイ、目玉焼きをのせ、ケチャップや魚醬を使い甘辛く仕上げるインドネシアのミーゴレンなど、中国発祥の焼きそばはアジア各地に広がり、その手軽さゆえ、どこの人にも愛される、B級グルメの定番メニューとなっています。皆さんもアジア各地で食べ比べなどしてみては如いかが何でしょうか。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2014年6月号第3回『炒飯あれこれ』

日本人がもっともよく食べる中国料理と言えば、炒飯ではないでしょうか。日本の炒飯はきつね色に焼き、お椀わんをひっくり返したように盛られ、中には刻んだ焼き豚などが入っており、とても美味ですね。

筆者は20数年前の上海留学時代、この炒飯のルーツを訪ねて中国中を歩いたことがありますが、日本のような炒飯に出会ったのは福建省の泉州、廈門だけでした。その後台湾にも一部この炒飯があるのを発見し、勝手な結論として、日本の炒飯のルーツは福建省南部から台湾へ、そして台湾から日本に渡った華人がもたらしたと考えています。

ところが香港で「福建炒飯」と言えば、あの炒飯ではなく、なぜかあんかけ海鮮炒飯なのです。これがまた美味なのですが、これは福建にはありません。恐らくは福建から香港に渡った人々が香港の海鮮を使って炒飯を作ったので、福建の名が付いたのではないかと想像しますが、香港人も福建人もその由来を知らないようです。

海鮮炒飯と言えば、韓国の港町、仁川のチャイナタウンに行った時に食べた炒飯はユニークでした。どんぶりをひっくり返したような形に盛られた炒飯は、具がエビやイカなど豊富な海鮮で、シンプルに炒められているのですが、そこにコチュジャンを混ぜて食べるのです。初めはどうかなと思ったのですが、これがどうして、かなりイケルのです。仁川には中国山東省あたりから渡ってきた華人が多いのですが、実は古来中国4大料理の1つは山東の魯菜でした。中国料理と韓国料理の不思議な融合、山東人もビックリではないでしょうか。因ちなみにこの炒飯の付け合わせには、キムチとたくあんが添えられていましたので、日中韓の合作なのかもしれません。

そしてもう1つ忘れられない炒飯がインドにありました。インドは大国で国土も広いのですが、珍しいことに華人はあまりいません。これは歴史的に隣国としてさまざまな紛争があり、またインド人と中国人の文化背景・習慣がかなり異なり、中国人が生きづらい環境であるということでしょうか。このような理由からインドには本格的な中国料理店は非常に少ないのですが、街にはChinese Dishと書かれたレストランをいくつも見つけることができます。

インド中部の文化都市、プネーというところに行く機会があり、中国料理と書かれたとても古い由緒正しいレストランに入りました。そこで炒飯と野菜炒めを頼んだのですが、野菜炒めは深い皿に入っており、中はドロドロしていました。一瞬間違いかと思いましたが、インドの野菜炒めとはこのようなあんかけであり、何とそれを炒飯にかけて食べることを知りました。

インドと言えばカレーですが、インド人はルーのようになったものをご飯やチャパティ(練った小麦粉を鉄板で焼いた平たいパン)などにかけて食べる習慣が一般的であり、野菜炒めもそのように変化し、味が薄い炒飯にかけるようになったようです。

皆さんもアジアを旅する際は、現地料理ばかりではなく一度は中国料理店を訪れ、その土地の中華メシをぜひ味わってみてください。きっと新たな発見がありますよ。