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NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年3月号第12回『豆腐いろいろ』

このコラムもいよいよ最終回になりました。これまで中国の料理がアジアでどのように変化し、食されてきたのかを書いてきましたが、書いている本人もどんどんのめり込んでしまい、旅の間、ずっと新しい素材を探し続けるという、これまでにない体験をさせて頂きました。感謝いたします。

さて、最後は豆腐です。大豆加工食品として、日本でも定番中の定番の食材であり、中国でもよく使われますね。実は豆腐(Doufu)は中国語と日本語で似通っていますが、日本が冷奴など生で食べることがあるのに対して、中国では麻婆豆腐に代表されるように、必ず熱を加えていることが特徴でしょうか。そういえば中国の豆腐は少し硬い物が多いようです。

因ちなみに中国では玉子豆腐のことをなぜか「日本豆腐」と言います。玉子豆腐は鶏卵とだし汁で作られており、大豆などを使用していないので豆腐ではありませんが、豆腐状に固められた物をそう呼ぶようです。中国の日本料理屋さんの定食には必ず茶碗蒸しが付いてくることから考えて、この呼び方になったのかな、と勝手に想像しています。

ついでに言えば杏仁豆腐、これも豆腐ではないのに、豆腐という名称が付いていますね。元々は中国で漢方薬として用いられていた杏仁、これを日本に来た中国人がデザート化した、つまり日本発祥なのでは、とこちらも勝手に想像しています。

20年前香港に駐在している時、よく行く広東料理屋さんで「杏仁豆腐の作り方を教えて」と言われたほど、日本人観光客が注文していましたが、当時の香港にはないデザートでした。因みに香港に住み始めた時、家内がスーパーで買ってきた豆腐を味みそ噌汁に入れたところ、甘くなってしまったことがありました。これが香港のデザート、豆花だと知ったのは後のことでした。

ミャンマー東北部、中国雲南省と国境を接するシャン州へ行くと、ローカル市場ではひよこ豆で作られた黄色い豆腐が売られていました。この豆腐を揚げて生しょうが姜ペーストを付けて食べると、何とも言えない美おい味しさで全て平らげました。ミャンマーでも豆腐は「トーフ」と言っています。

またシャンヌードルと呼ばれる麺があるのですが、このヌードルにはスープの代わりに軟らかい豆腐をかけて食べる、トーピヌエカオソイというものがあり、これがまた麺とよく合っていて、何杯でもお代わりできそうな味でした。

ベトナムのハノイ、市場で揚げた豆腐を食べてみると、香ばしい表面と軟らかい中身、絶妙の取り合わせでした。ここでも豆腐はドウと呼ばれていました。バンコクの華人が多く住む地域に中国大陸から来た豆腐職人が「豆腐を作る技術があればアジアのどこへ行ったって、食いっぱぐれはない」と言うのを聞き、なるほどなと思いました。中国料理の伝播と共に豆腐も伝わっているのです。

台湾などで屋台街を歩いていると強烈なにおいを発する臭チョウ豆腐と出会うこともあるでしょう。旅しているとあの臭豆腐が無性に食べたくなったりしますね。皆さんも是非アジアを旅して、各地の豆腐をご賞味ください。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年2月号第11回『具を包むから包子』

「餃子と饅頭はどのように区別されているのでしょう」と聞かれたことがあります。これまでの経験でいうと、中国の饅頭は具が入っていない物を指すようです。具を入れて包むので包子というのだと理解していますが、例外も沢山ありそうですね。

餃子も包子の一種でしょうか? 中国には上海の小籠包や広東の叉焼包など美味しい包子が色いろ々いろとありますね。筆者は台湾へ行くと、台湾の有名な小籠包屋さんの豆沙包という餡子入りの包子を、デザートとして必ず注文しています。

中国内モンゴル自治区では「焼麦」という包子を見つけました。小麦粉で作ったごく薄い皮の中に、羊肉やみじん切りの野菜、調味料を加えたものを包んで蒸したもので、元代より伝わる巾着形できれいな形をしています。「焼き」と書きながら蒸すのが特徴で、面白いですね。因ちなみに北方では〈焼麦〉、南方では〈焼売〉というとのこと、あのシュウマイの原型のようです。

内モンゴルの北にあるモンゴル国では肉まんをボーズ(包子から派生)といい、こちらも千切りの羊肉がたっぷり入った包子です。新疆ウイグル自治区カシュガルの市場で食べた羊肉入り包子。蒸籠の中の包子の上にナンを載せて、その汁を少し吸い取ります。その後そのナンはシシカバブーの皿になり、我々の目の前に登場しましたが、このナンの味が忘れられません。ナンには塩気があり、羊肉の肉汁との融合が素晴らしいです。お茶の時間には老人が格好いい帽子を被り、茶をすする光景を見ました。お茶請けは焼き羊肉まん、肉汁が大量に出てきますので、熱々で食べると火やけど傷しそうです。

カザフスタンではマンティという名前で出てきました。マンティは饅頭から派生した呼び名だと思われますが、羊の肉が具として入っています。かなり時間をかけて蒸されたマンティはやはり羊肉の肉汁たっぷりで実に美味しかったです。

チベットでは肉まんをモモと言っています。一瞬果物を連想しましたが、インドの東北部、チベットにほど近いカリンポンで食べたモモは形も中身も完全な日本の肉まん。インドでは豚肉を食べることが非常に少ないので、この地で久々に食べた肉まんは日本人としては絶品でした。中国の清朝時代、この地域がチベットやモンゴルと近しい関係にあったことから、伝わったと考えられています。

ミャンマー、ヤンゴンの道端の喫茶店で、ミルクティーを注文すると偶たまたま々出てきた包子。やはり叉焼が入った肉まんであり、発音もバオジと、バオズと類似していました。ちょっと甘い叉焼包を食べながら、甘いミルクティーを飲むと美味しく感じられたのは、ヤンゴンの暑さのせいでしょうか。

アジア各地に広がった包子。若干の発音の違いなどはあるものの、多くは聞き取れる範囲内で、それほど変化していませんでした。同時に味についても、それほど大きな変化はなく、アジア全域に受け入れられた様子が分かります。やはり手軽で便利な食べ物、ということでしょうか。このような食べ物があるとアジアの旅も安心できますね。

NHKテレビで中国語コラム『アジアの中華メシ』2015年1月号第10回『暑い国で食べる美味しい鍋』

我々日本人も大好きな鍋料理。中国でも昔から、北方では涮羊肉(羊しゃぶしゃぶ)など美味しい鍋料理がありました。これが日本に伝わり、しゃぶしゃぶのルーツになったとの説もありますね。その他、最近では「鴛鴦火鍋」と呼ばれる、白湯と麻辣の2種類のスープを1つの鍋の中で仕切って入れ、2つの味を楽しむ火鍋が大流行しています。

庶民が家族で鍋を囲んで食べる、如何にも中国的でいいですね。肉に野菜、豆腐や春雨が入り、キノコ類も人気ですね。ただ火鍋は年々豪華になってきており、以前はシンプルな羊肉だったものが、最近は肥牛(鍋用の薄切り牛肉)に高級牛肉を使ったり、北方でも伊勢海老やホタテなどをふんだんに入れる、高級料理に変身しているところもありました。中国の経済パワーが垣間 見られますね。

涮羊肉に使う鍋をシンガポールやマレーシア辺りではスティームボートと呼び、それが名物料理になっています。エビやカニなど海鮮を中心にふんだんに具材を入れて、あっさりしたスープで煮込む豪快な料理ですが、これなどは中国から伝播したものと言えるでしょう。暑い国なのになぜか食べたくなる、不思議な鍋ですね。

一方、タイでも今や国民食とまで言われるタイスキがあります。「タイ風すき焼き」の略かと思いましたが、日本のすき焼きとは違いますね。いつ頃から食べられ始めたのかタイ人に聞いても良く分かりませんが、中国の鍋をヒントに華人が1950年代に「スキ」と言う名前で売り出したという話があるそうです。スキと言う名は当時海外で流行っていた日本のすき焼きからとったとか。まあ実際のタイスキは、日本で言えば寄せ鍋が近いかもしれません。

特にタレにニンニク、唐辛子などを入れるのが中国的でもあり、タイ的でもあります。シメに麺を入れるか、卵を落としておじやを作るか、というところが日本的で、この名が付いたのかもしれません。現在ではタイ全土にチェーン展開している店もあり、今やタイのどこでも手軽に食べられますね。

ラオスやタイ東北部の鍋としてユニークなのはムーカタでしょうか。こちらは「タイ風焼き肉」とも言われていますが、筆者はラオスの首都ビエンチャンで初めて食べました。食文化的にはタイ東北部とラオスは殆ほとんど一緒だということです。

ムーは豚肉、カタは浅い鍋という意味だとか。日本から入った、いや韓国が起源だ、などと言われているようですが、見ている限り中国の鍋から来たように思えるのですが、どうでしょうか。

そのムーカタですが、真ん中が盛り上がった鍋を使い、その盛り上がった部分で肉を焼きます。そして鍋の縁沿いにスープを入れ、焼き肉の肉汁と融合させ、そこへ野菜や海鮮類などを入れて煮込みます。焼き肉+鍋ということでしょう。このムーカタ料理店はバンコクにも何軒もあり、料金も手ごろなビュッフェ形式が多いようでした。家族や友人同士で鍋を囲み、様さまざま々な食材を好きなだけ取り、楽しそうに食べる、暑い東南アジアですが、なぜか鍋が似合うのです。