さしま茶旅2016(2)さしま茶の歴史と現在

茶園のすぐ横の畑に行ってみると、ここにはまるで茶業試験場かと思わせるほど、様々な品種が植えられていた。畝ごとに品種が違う、と言ってもよいかと思うほどだった。見ると今も新しい品種を植える作業を行われているようだ。先日購入したいずみ、という品種も植えられていた。この品種はその昔、元々紅茶用として開発されたが、その後紅茶が作られなくなると無くなっていったが、近年復活され、煎茶を作り賞も得たという。その若干の渋みが私は好きだったが、勿論これを生かした紅茶を作れば、これまた新しい感覚が開けることだろう。

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茶園の入り口付近には不思議な置物が見えた。中に入ると、古い蔵が見える。既に建造から100年以上は経過しているらしい。レンガに特徴があるな、と思っていると、『このレンガは東京駅に使われたものを同じだと聞いている。栃木の茂木あたりで良いレンガが作られていたらしい』というではないか。何とも歴史を感じさせる。蔵の中を拝見すると、今はここが茶葉の貯蔵庫になっていた。適度にヒンヤリしたこの室内が、茶葉の保存に適しているようだ。

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更にその蔵の横を見ると、何だか昔の温泉宿のような建物が建っていた。こちらも見せて頂くと、そこが製茶作業場になっている。天井が高い、というか、高いところに天窓があるという感じだった。天候により、窓を開け閉めするらしい。高所恐怖症の私にはとてもできない業だ。昔の製糸工場などを思わせる作りだった。昔は手作業で行われた製茶、その一部をいち早く機械化したことも分かる動力もある。

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さしま茶は江戸時代、日乾法という天日干しで作られていたという。この金額の安い茶が、今回のテーマである江戸庶民にもたらされた茶のような気がする。これは番茶、と言ってよいであろう。その後、江戸末期には宇治の煎茶製法を学び、品質改良が行われた。吉田茶園もその頃、創業されたらしい。幕末には、さしま茶の売り込みのため、伊豆下田の玉泉寺に開かれた米国総領事館に、ハリスとヒュースケンスを訪ねた記録もあるようだ。地紅茶サミットの開かれた下田はさしまと無関係ではなかったのだ。これもまた実に面白い偶然だ。

 

敷地内にはきれいな店舗があった。そこでお茶を頂きながら、話を聞く。いずみ、ほくめい、美沙希など、見慣れない品種の茶が並んでいる。普通にどこにでもあるお茶ではなく、常に色々な品種を改良して、新たな茶作りを目指している様子が良く分かる。試飲すると、いずみは勿論、他の物も、他にはない、独特な味わいがある。この地を実際に見てから飲むからそう感じるのかも知れないが、ちょっと誰かに紹介したいような気分になる。風は相当に冷たいが、天気がとても良い庭では、子供たちが楽しそうに遊んでいた。この雰囲気も重要だ。

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木村製茶

吉田さんの車で、出掛けて行く。冬の日は短い。既に日が傾き始めている。何となく子供の頃、栃木の冬の夕暮れを思い出す。ちょっと寂しい雰囲気。吉田さんの言葉のイントネーションが昔を思い出させるのかも。栃木と古河、やはりかなり近い場所にある。これから行くのは境町、木村製茶を訪ねる。こちらも横に茶畑が広がっており、様々な品種が植わっていた。

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木村さんは10年以上前から、国産烏龍茶の生産をしている日本では珍しい茶農家だ。日本の茶葉を使い、如何によい烏龍茶を作るか、日々研究しているという。様々な茶樹が植えられている理由はそこにある。『日本の茶業はすでにピークを過ぎており、特色あるお茶作りをしないと将来はない』との考えから、この寒いさしまの地で育っている、肉厚の茶葉を使って発酵茶を作る、香りの良いお茶を作ることを考えたという。香りは今の日本茶に欠けている重要な要素だ。

 

台湾から早々に製茶機械を輸入して、また実際に毎年台湾を訪問して、様々な茶農家のもとへ行き、実際に烏龍茶作りを学んできた。比較的日本茶に近い包種茶などを勉強したようだが、当初は悪戦苦闘した。『言葉が通じずに苦労したが、学ぶことはとても多かった』というが、その努力は並大抵ではなかったろう。茶業にかける情熱が感じられた。そして『作り手の都合ではない、茶葉の都合で作ること、消費者に身近な茶作り』という言葉が印象的だった。

 

吉田さんから『いずみ』をもらい、共同生産したお茶は芳醇な香りがあり、世界緑茶コンテストで最高金賞を受賞した。木村さんの烏龍茶を飲ませてもらうと、かなり淡い香りがあり、上品な感じがした。『自らが生産できるお茶の数量には限界がある。少量多品種、小回りの利く茶作りを目指していく』との言葉があったが、知れば知るほど奥の深いこの世界、その道のりはまだまだ険しいのかもしれないが、ぜひ頑張ってチャレンジして欲しいと思う。

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