ミャンマー紀行2003(22)ヤンゴン さらばミャンマー

(6)最後の晩餐

最後の夜はSSの好きなレストランに行くことにしていた。初日の夜に行った火鍋屋より立派だと言う火鍋屋が選ばれた。兎に角火鍋屋なのだ。ところがどうしたことであろうか。あの元気だったTTMの具合が悪いと言う。あの真面目な人のことだ。余程のことだろう。それでも彼女の責任感は凄かった。熱があるのだろうに決して帰ろうとしない。最後は冷房の利いた室内にはいられないと、車の中に移動して寝ていた。何という人だろう。感動してしまった。いくら私がS氏の客であったとしても、そこまでしてくれる人はは今の日本人にはいない。

 

火鍋は相変わらず、安心して食べられる味で美味かった。SSはエビや蟹を頼んで美味いと言って食べている。運転手も同席はしているが、彼は極端に無口で口を挟まないため、実質SSと2人である。彼女もさすがTTMの娘。やはり自分がお客を持て成さなければと19歳にして、一生懸命話してくれる。この歳で英語を使って、外国人と会話を続けるのは大変だっただろう。

Myanmar2005c 028

 

彼女の学校は3年制で専攻は経済だという。クラスは15人で女子は3人しかいない。授業が終わると、友達と遊ぶこともなく、真っ直ぐ帰宅してTTMの手伝いをする。月に一度ぐらいは高校の友達と遊ぶこともあると言うが、我が家の息子たちと比べるとどうだろう?家庭環境の差はあると思うが、親の責任も大きいような気がする。子育ては難しいとまた感じる。

 

SSが夢を語る。『国際的な貿易をしたい。そのためには英語ももっと勉強し、経済も勉強したい』というのだ、私にも昔は夢があったはずだと思ったが、思い出すことも出来ない。SSは来年卒業。何かしてあげたい気分になる。彼女の姉は日本人と結婚して東京にいると言う。それでも一般のミャンマー人が日本行きのパスポートを手にすることは容易ではないようだ。S氏によれば、ミャンマーでパスポートを手に入れるにはUS$5,000程度掛かるという。これは今のミャンマーにとって大金である。奨学金をもらうのも、難関中の難関。更に国際社会からの経済制裁がある。ミャンマーへの援助も細ってきている。TTMの夢が政変で破れたようにSSの夢も叶えられないのだろうか?

 

8月23日(土)

(7)さらばミャンマー

翌朝TTMから電話があった。『他に用事があり、見送りに行けません。本当にすみません。SSが代わりに行きます』、何という律儀な人だ。しかしどう見ても他に用事があるとは思えない。病気は相当重いようだが、声は精一杯元気だった。TTMに最後に会えないことは残念ではあるが、仕方が無い。

 

ロビーにSSがやってきた。車代の清算などをしたが、FECの価値がかなり下落しており、果たして迷惑が掛からないかとかなり心配になる。SSがお土産だといって包みをくれる。後で開けてみると何とロンジーの生地が入っていた。今その生地は大事に保存しており、次回のミャンマー旅行の際に持参して、縫い合わせてもらい、且つ履き方を習う必要がある。

 

ホテルの玄関でSSと記念撮影をした。何だか涙が出てきそう。実に不思議な気分。車に乗ると既に見慣れたヤンゴンの町並みがどんどん過ぎて行く。空港までの30分、何故か殆ど無言だった。自分がどうしたいのか分からない。気持ちが整理できなくなっていた。飛行場に到着。SSが『さようなら。』と日本語で言う。そしてくるりと背を向けて去って行く。何だか希望が去って行くように見えた。

 

 

追記

ミャンマーに関する報道はアウンサウン・スーチーさん一色である。軍事政権のイメージからミャンマーは至極危険なところだという印象もある。事実今回の旅行に際しても多くの日本人から『大丈夫か?』と尋ねられた。その度私は確信を持って大丈夫と答えていた。あの確信は何処から来たのか?自分でも分からないが、今回の旅を終え、その確信が事実であり、且つ私は必ず過去にこの国と繋がりがあった、との新たなる確信を持った。ミャンマー人は来世信仰である。今の日本には未来は無いかもしれない。それでも人は生きていかなければならない。私も来世を信仰しようかと思う。

 

因みにヤンゴン滞在中にS氏の計らいで、一度スーチーさんの家の前を通る機会を得た。そこは道路が封鎖され、一般車の通行は禁止されていた。その為人々は大きく遠回りをしていると聞く。道路に面した建物は一部が黒焦げになっていた。彼女は軟禁中であり、幸い?そこには居ないようであるが、何とも痛々しい。

 

しかしこの軍事政権とスーチーさんの争いのお陰で迷惑しているのは一般市民である。国際援助も途絶えがちである。何とか道路封鎖を解除して、自由な通行を期待したいものである。

 

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