《昔の旅1986年‐激闘中国大陸編》-無錫旅情と口げんか

 

〈2回目の旅-1986年10月無錫〉 
―無錫旅情と口げんか

無錫と言えば、『無錫旅情』。尾形大作が既にこの歌を歌っていたと思う。北京旅行で自信を付けた私は、直ぐにも次の旅行に行きたかった。それは留学生生活がとてもつまらなかったのと上海を離れたい思いが強かったからだ。上海、今ではいいイメージも強いこの町は、この頃何も良い事がないように思えた。上海人は顔ではニコニコしているが、お金のことしか考えていない。食べるものもない。授業も北京の北京語に比べれば、これが北京語?といった上海訛りの標準語。そんな風に考えていた。

10月中旬、同室のAさん、H銀行のCさんともう一人の4人で無錫に行った。もう一人はTのIさん?何故この時無錫に行ったかは覚えていない。もし理由があるとすれば歌ぐらい?列車の切符は和平飯店?の中国国際旅行社で予約。軟座を確保。当時列車の料金は外国人が中国人の1.8倍、且つ外国人は外貨兌換券(FEC)という人民元とは異なる通貨を使っており、この兌換券をもし闇で両替すれば1.5倍になったことから実質2倍以上の料金を取られていた。但し留学生証があれば中国人料金になった。でも軟座を取るには兌換券は必要。どちらにしても日本円にすれば何百円の話であるが。

無錫までは列車で僅か2時間半。軟座は4人掛けの柔らか目の椅子席である。席に付くと車掌さん?が早速薬缶にお湯を入れて持ってくる。茶を飲むコップは例の蓋付きがテーブルに置かれている。なかなかよいサービスだ。窓からの眺めもなかなか良い。日本の田舎と同じような畑や田んぼが続く。江南の春ならぬ秋である。春は菜の花が一面に咲き乱れ見事なものであるが、秋は稲刈りが終わった感じで物悲しい。

同じ列車にはT銀行の上海所長がスーツ姿で乗っていた。南京に出張のようだ。何となく後ろめたい思いになったが、当時駐在員は我々よりずっと良い生活をしていたので、自費で旅行するのに文句があるかなどとも思っていた。(勿論この所長には何の恨みもない)

無錫に到着すると駅前はやはりごった返していた。と言っても上海ほどではない。先ずは駅で帰りの切符を手配。外国人専用窓口があり、2日後の軟座が簡単に手に入った。これで今回の旅行は2泊3日と決まった。順調だ。次はホテル。駅から少し歩いた無錫大飯店というそこそこ綺麗なホテルを見つけて宿泊交渉。左程時間も掛からず、チェックインできた。

当日は小雨が降っていたが、ホテルからまた歩き出す。大分歩くと漸く湖が見えてきた。太湖だ。小雨に煙っているが、大きい。中国で4番目に大きいという。湖畔には大きなホテルが幾つか見え、こちらの方が旅情を誘う感じがして少し残念な気がした。日本人には極めて好まれる風景ではある。散歩を少ししたが、雨で引き返した。

夕飯はホテルで無錫料理を食べた。何と言っても無錫排骨が旨い。味付けが甘めで,日本人向き。他の料理もなかなかいけており、上海の留学生食堂で食うより余程良い。

2日目はタクシーをチャーターし、宜興へ行く。宜興、現在の私なら何としても行きたい町。紫砂の茶器で有名な町であるが、当時は全く興味がなく、目も呉れなかったのは残念。あの時買い求めていれば今頃素晴らしいコレクションになっていたのに??その時は洞窟があり、小さな船で洞窟探検が出来るという事で行ってみた。確かにちょっとした観光地であったが、印象はあまり強くない。

帰りにチャーターした車が他の車と接触したことの方が印象に強い。我が運転手は敢然と車外に飛び出し、ものすごい勢いで口げんかが始まった。中国では口角泡を飛ばすといった口論が町の彼方此方で見られる。ただその時は自分達も当事者となった為、事態の推移を固唾を飲んで見守った。周りに野次馬が殺到した。他に楽しみがないのか、何処でも野次馬が多い。かなり言い合った後、とうとう我々の所に来て、証人として証言してくれと言う。当時の北京語力ではとても証言など出来るわけがない。第一実際にどちらが悪いのか見ていたわけではない。一瞬の出来事だったから。

我々が証言出来なかったことが祟ってか、運転手は捨て台詞を残して車に戻ると乱暴に発進させた。きっと彼は会社に戻り、社長に色々と言い訳をしないといけないのだろう。私は彼に悪いことをした気がしてならなかったが、どうしようもなかった。中国では口論で相手を言い負かす言語力が求められることを痛感した。但しこれはネイティブではない我々には実際は不可能なことに思えるが。

3日目は帰る前に恵山泥人形工場に行った。泥人形は無錫の特産。お土産に1セット買った。劇の役者の顔を模った物が多かった。無錫は元々錫の産地であったが、早くに掘り尽くしたという。それで錫がない無い、無錫となった。その後泥人形が出来たのかもしれない。

帰りの列車も何事もなく上海に着いた。今回の旅ほど何のハプニングも起こらなかったのも珍しい。

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