梨山に登る2014(5)梨山 茶業の厳しさ

もう一つの茶園へ

それからもう1つの茶園へ行くことに。そこは面積的には狭く、樹木に囲まれた四角い場所。Johnnyの会社が所有する茶園だった。ここでも大勢の摘み手が朝から懸命に摘んでいた。道路から下へ降りようとしたが、意外や急で足を滑らせそうになり、止める。本当に高地の茶畑はどこでも急な斜面にあり、危険が伴う。

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そしてもう一つの危険、雨が近づいていた。勿論山の天気、一日中晴れていることなど殆どないらしいが、今日はかなり長い日照時間が確保されており、雨が降る前に出来るだけ摘んでしまおうとしている様子に厳しさが滲む。日差しが閉ざされるだけで心が沈む。ちょっとJohnnyと話している間に、形勢は一気に変わってきた。突如周囲が暗くなり、大粒の雨が落ちてきた。それでも切のよい所まで摘むのだろうか、手を動かしていた摘み手たちも、横殴りの突風が吹いてくると、一目散に逃げ出した。私は傘を差したが、その傘は役に立たず、我々も車に向けてダッシュ。ところが足が滑り、危険この上ない。

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ようやく車に潜り込んだ時には服はかなり濡れていた。体感温度もかなり下がっている。山の天気は変わりやすい、とは聞いていたが、これも一つの茶業リスクだろう。摘んだ茶葉は直ぐに工場に運ばれたようだ。品質に影響があるのだろうか。

 

茶旅を紹介

工場では布に包まれた茶葉が機械で揉まれていた。かなり固くなると、また布を取り、また揉む。先日訪れた福建省安渓の張さんは布を巻く、取るを一人でやっていた。ここには何人もの若い従業員がいて、どんどんこなしていく。改めて張さんの偉大さを見た思いだ。

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Johnnyには大変世話になっている。何かお役に立ちたいが、製茶作業は私にはできないし、茶摘みも難しいだろう。彼からは『出来るだけ茶旅の話をしてほしい』との要請があったので、安渓からダージリン、スリランカやトルコ、ベトナム、インドネシアと思いつく限りの茶旅を話した。作業をしている人々も時々お茶を飲みに来る。Johnnyのオジサンで茶師の人などは、興味を持って茶旅を聞いてくれ、意見を交換した。茶商や生産者は当然ながら忙しいので、なかなか他の産地へ行くことが出来ない。ましてや海外となると、時間が取り難い。まあ作業の合間、ちょうど良い気晴らしも兼ねて、聞いてくれたのだろう。

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夕飯がやって来て、また美味しく食べる。今日は雑炊のような物が出ており、胃腸に優しかった。ここには若者がかなりおり、食事もカロリーが高そうなものが並んでいるが、美味しいのでつい食べてしまう。私は労働していないのでどう見ても食べ過ぎ。食後はまた、お茶を飲み、話す。なんとまあ、贅沢な時間だろうか。向こうの工場では機械が回り、茶が作れている音が微かにする。

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5月26日(月)

茶商がやってくる

翌朝も快晴だった。これは凄い!喜びで起き上がる。『私はやっぱり晴れ男だ!』と胸を張る。今日は宿のオジサンが麺を作ってくれた。昨日は量が2人分はあったので今日は少なくお願いしたが、それでもかなり多かった。

 

晴れているので気分が良く、外へ出た。工場までの道を歩いて行くと、今日も雲がきれいにかかり、景色は抜群だった。こんな日ばかり続けば苦労はないな、と経営者気分になる。工場に行ったが、誰もいなかった。昨晩の作業が遅く、まだ寝ているのかと思い、外を散歩した。宿の辺りまで戻り、別の道を行く。この辺は茶畑ではなく、高原野菜の畑が多い。どう考えてもこちらの方が手間もなく、儲けが出そうだ。お茶は茶葉を摘むだけではなく、製茶しなければならないが、キャベツなら、育ったら畑から採れば出荷できる。茶畑が消えていく理由は明白だ。

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工場に戻ったが、相変わらず誰もいない。するとそこにJohnnyから『どこにいるんだ?』という電話が。オフィスにいるというと、すぐにやってきた。彼は寝ていたわけではなさそうだ。ただ首が痛そう。寝違えたというが、それだけではあるまい。かなりの精神的な疲労が重なっているはずだ。既に山に籠って1か月、思うようにならない天気と戦っているのだ。良いお茶が出来なければ経営も出来ない。けんちゃんが『朝4時まで作業した』と欠伸をしながら起きてきた。慣れているとは言うものの、やはり肉体的にも精神的も厳しい。

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そんなことを考えていると、外に車の停まる音がした。4人ほどが下りてきて中に入ってくる。若者がJohnnyを訪ねてきた。高雄から来た茶商一家だという。早速試飲が始まった。ここは真剣勝負、和やかな中にも、厳しい空気が流れる。若者はしきりに質問していたが、お父さんは一口飲んでレンゲを戻し、横を向いてしまった。若者はJohnnyにせがみ、工場見学をしていたが、その間、お父さん、お母さんはつまらなそうに雑談していた。お茶にはもう手を出さなかった。

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彼らが帰った後、そのお茶を飲んでみると、それほど良い出来のものではなかった。『商売ならどうしてもっと良い物を出さないのか』と聞くと『彼らとは過去に取引はない。本当に良いお茶は常連さんに渡す分しかない』という。お父さんが一口で止めたのも頷ける。この駆け引きは面白い。素人ではこうはならない。お父さんは息子に修行させているのだが、息子はまだ素人気分が抜けていない?または将来に備えて、好を敢えて結ぼうとしている、ということか。この世界、相当に難しい。

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