台湾茶の歴史を訪ねる旅2011(8)台北 深坑・猫空・新店山中

21. 深坑へ行く

黄さんには大変お世話になった。名残惜しいがお別れする。最後に黄さんから「必ず徐先生に電話を入れろ」と念を押される。しかし私は明日帰国する。徐先生の家は少し遠いらしい。どうしたものだろうか。取り敢えず電話してみたが、お留守のようであった。また次回台湾に来た時に連絡しようと考えていた。

今回の宿泊先Ez StayのオーナーHさんと食事をする時間がなかった。台北最後の夜にようやく時間が出来たので声を掛けると「深坑で豆腐でも食いましょう」と誘われる。深坑、恥ずかしながら実はどんなことろかピンと来なかった。台湾茶の歴史を訪ねる人間としては失格であろう。

Hさんのバイクに跨り、先ずは木柵のHさんの家へ。台北市内でバイクに跨ると鹿谷などとは全く異なるスリルが味わえる。怖くないのだろうか、と思うような恐ろしい台数が脇を通過していく。いきなり左折する。Hさん曰く「もう20年も台北で乗っているんですよ」そうか、それは安心。

H宅でバイクから自家用車に乗り換えようとしたところ、携帯が鳴る。流暢な日本語が聞こえてきた。何と徐先生がコールバックしてくれたのだ。これにはビックリ、恐縮してしまう。徐先生は「資料を準備してお待ちしています。いつ来ますか?」と聞く。実は明日帰国することを話し、次回の再訪を約束する。しかし先生から「それで次回はいつ?」との問いに思わず気の弱い私は「5月下旬には」と答えてしまう。5月下旬は香港へ行くはずなのだが。何と来月の再訪が決定する。

深坑に到着。ご飯を食べるかと思えば、お茶屋さんに行くと言う。儒昌茶荘(http://www.zuchangtea.com.tw/)と言う名前のそのお茶屋さんの祖先は1845年に福建省安渓から移民し、茶園を続けている。この付近は台湾茶の発祥の地の一つに数えてもよいかもしれない。淡水河の上流、そこに福建から持ち込まれた茶樹が植えられていたのである。

我々が訪ねた王さんは3代目、静岡の茶葉試験場での研修経験もあり、若いのに日本語は堪能。ちょうど摘んだ茶葉が上がっていたようで、話しながらも忙しなく仕事をしている。包種茶の茶葉を茶碗に入れ、スプーンですくって飲んでいる。今年は冬が寒く、お茶の生育が遅れたと言いながら、音を立ててすする。

このお店、店頭から茶缶が並び、昔の茶商の雰囲気を残している。深坑の茶の歴史にも興味があったが、資料はあまりないとのことであった。ついでに日本時代の日本人に関する資料について尋ねると「確か研修中に金谷(静岡)の茶葉試験場にあったような気がする」との答え。そうか、台湾に残っていなくても、日本に持ち帰られた資料があるかもしれない。これは収穫であった。

そして豆腐レストランへ。人気店らしくかなり混んでいる。台湾ではこれまで豆腐料理がメインのレストランでは食べたことがない。台湾でも今や健康志向なのだろうか。揚げ豆腐、臭豆腐、どろっとした豆腐スープ。数々の豆腐料理がテーブルを埋める。こりゃ、なかなか旨い。どんどん箸が進む。台湾料理はまだまだ奥が深い。

22.猫空の夜

豆腐を満喫した後、Hさんが「夜のお散歩でもしますか」、と聞く。もうなすがままである。夜8時台、車で猫空へ上がる。猫空とはなかなか奇妙な名前であるが、観光茶園がいくつもある台北市の寛ぎスペースである。景色を売り物にしているが、4月とはいえ、今日は結構冷える。ミニバスが通るが、客は殆ど乗っていない。ロープウェーも開通しており、寒空の中を動いている。

Hさん行きつけの店へ行く。「六季香茶坊」(http://www.taipeinavi.com/food/254/)と書かれた看板の所を上がる。上は前面が露店になっており、奥に建屋がある。人は誰もいない。Hさんが奥の方に入っていき、声を掛けるが、返事がない。こんな時間にお客が来るとは想定外であろう。

ようやく横の建物から返事がある。どうやら茶作りの最中であるらしい。ご主人が出て来た。張さん、独特の雰囲気を持つ人物である。露天の一番前、景色の良い所に陣取る。Hさんは半袖シャツ1枚でかなり寒そう。張さんも上に羽織るものを出して着ている。

ここからの眺めはかなり良い。台北市が一望できる。張さんがお茶を淹れようとしたその瞬間、市内で大音響の花火が上がった。一体どうしたんだ?考えてみれば本日は台湾花の博覧会最終日、そのイベントの一環で花火が登場したのだろう。偶然とはいえ、不思議な気分となる。

張さんは作ったばかりの木柵鉄観音を淹れてくれた。中国の鉄観音はどんどん緑茶化して軽くなっており、香りがあればよい、といった印象が拭えないが、こちらは実に濃厚な味。私の好きなタイプであり、恐らくは本来の鉄観音の味を残しているのであろう。次に冷凍茶が出される。これは鉄観音の茶葉を冷凍して保存。名前だけ聞くとアイスティーかと思ってしまうが、実は室内萎凋と言う工程の後、茶葉を加熱殺菌し、仕上げの乾燥火入れをしないので、ビタミンが凝縮されていると言う。

茶葉は緑であるが、味は木柵鉄観音。なかなか面白い。こんな所にも木柵の茶農家の探究心が感じられる。当然この辺りの茶農家も歴史が古く、1870年代以降茶作りが始まっている。しかし張さん達にとっては、歴史より今日、今日より明日、といった感じで、今晩も茶作りで徹夜らしい。いい鉄観音を作って欲しい。

夜も更けて来て、茶作りの邪魔にもなると言うことで退散した。次回は茶葉料理でも食べながら、ゆっくりと話を聞いてみたい。

23.新店の山中で真の有機茶を

その夜、今回最初の頃お会いしたJさんより連絡が入る。本当の有機茶を見たいなら、お茶屋のYさんが連れて行ってくれると言う。是非にと頼む。翌朝Jさんはゲストハウス前まで車で迎えに来てくれ、私の荷物をトランクに積みこむ。そう、今日は台北最終日だ。

前回訪問したYさんの家の前で私だけ降ろされ、Jさんは仕事に向かう。何故?家ではYさんが待っており、すぐに下に降りる。そしてバイクを持ち出す。バイクの二人乗りで行くのだとか。二人乗りには慣れたが、この華奢なYさんと年代物のバイク、どんなものだろうか。

本当の有機茶を栽培している所には、車では入れない。よってJさんには気の毒だが、二人で行くことにしたと言う。それは本当に気の毒なことをした。バイクは台北市内を南へ向かう。30分も走ると郊外の山へ入る。しかしずっと乗っていると手が疲れる。

それからどこをどう行ったのか、かなり上った。確かにこれは車ではちょっと、という所まで来ると、バイクが停まる。とうとう着いたのか。時間は1時間ほど経っていた。そこには古ぼけた家があり、その奥では・・。そこでは本当に伝統的な四季春が作られていた。

茶畑は更に上にある。そこまで茶農家の車で行き、そして道なき道を歩く。すると斜面に見事な茶畑が。確かにここには肥料はなかった。知る人ぞ知る、茶の産地である。

帰りに飲ませてもらったお茶はまた格別な味がした。思わず、ウメイ、と声が出た。本当に美味しい、自然なお茶に触れた気がした。ここで作られるお茶は市販されることはない。知り合いが全て予約してもっていく。量も非常に少ない。

帰りもYさんのバイクに跨り、幸せな気分で山を下りる。しかしYさんには堪えた様だ。家に辿りつくとぐったりして、昼ごはんもいらないと言う。本当にいい物を見せてもらい、ご迷惑を掛けてしまった。勿論もう一度一人で行くこともできない。

24. 村子口

またJさんが迎えに来てくれた。本当に今回は足代わりに使ってしまい恐縮。昼飯を食べに行くことに。正直バイクに往復2時間揺られ、更にはなかなか目に出来ないものを見てしまった興奮も重なり、空腹にはなっていない。しかし私の旅は言われたらそこへ行くもの。

Jさん曰く、「蒋介石と一緒に来た軍人が住む村があって、そこの料理は美味いよ。」。なに?何だか惹かれるものがある。先ずは向かう。市民大道、昔はこの道はなかったので、何となく位置関係が分からない。ここの駐車場に車を入れ、敦化南路の一本東の道を行く。知らなければ通り過ぎる、そんな平屋の佇まいが村口子であった。特に看板が出ている訳ではない。

中に入ると威勢の良いおじさん(パジャマに見える服装)が、「何食うんだ!」といきなりJさんに話し掛ける。丸いテーブルがいくつかあり奥行きのある店の中はもうすぐ2時だと言うのにお客がいる。先ず目に入ったのが、壁に掛けられた水筒や軍帽。壁には「報国増産」などのスローガン。うーん、雰囲気出ている。

メニューはあるのかどうかわからない。Jさんと共に厨房横の台を眺め、好きな料理を選ぶ。私の大好物の大腸など内臓系、豚の耳がどっさり、嬉しい。主食はここの名物、双醬麺。所謂ジャージャー麺の醬と麻醬を両方とも入れ、かき混ぜて食う。なかなかイケル。

ここで麺を食いながらJさんに先程の茶畑旅行を報告。ついでに少し貰った茶葉を分ける。食べ終わってもまだ話が続いたので、少し歩いて伯朗珈琲館(Mr.ブラウンカフェ)に移動。ここは台北の街を歩いているとよく見かけるコーヒーチェーン店。入るのは初めて。何だかちょっとおしゃれで、店内では皆がネットか携帯をいじっている。聞けばここは無料で無線ランが使える。

店内で驚いたのは、コーヒーも売っているが、ウイスキーも販売していること。これは持ち帰り用で、店内で飲むのではないらしい。中国でも香港でもそうだが、従来コーヒーなど飲まない、お茶を飲む文化圏がいつの間にかコーヒー圏に浸食されている。何故だろうか。日常生活がコーヒー、非日常が茶、と区分けされそうで怖い。

あれこれ考えている内に時間が来て、空港まで送ってもらう。僅か10分で到着。兎に角便利である。今回は収穫の多い、中身の濃い訪問であった。次回は1か月後、さて、どうなるのだろうか??実に楽しみである。




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