ご縁で行く湖南省茶旅(3)益陽 安化紅茶を発見、益陽茶廠は国家機密

10月15日(月)  3.益陽2  安化紅茶を発見

翌朝は前日の疲れがあり、ホテルでゆっくり過ごす。それでも今日の工場見学の段取りが全く分からないので11時頃に、昨日のお礼も兼ねて、総代理店に顔を出す。今日は雨も無く、いい気分で散歩した。

総代理店に行くと、既に工場側には私の訪問が伝わっているので問題ないと言われ、そしてまた昼時となり、奥でご飯をご馳走になった。一昨日同様、実にうまかった。たらふく食べて、またお茶を飲む。実によいランチだ。

何気なく、店の棚を見ていると、殆ど黒茶しかないその棚の隅に、見慣れぬものがあった。安化紅茶、と書かれていたので興味を持つ。店の人曰く、「安化紅茶はほぼ全量がイギリスなどへの輸出であり、地元の人も殆ど飲まない」と。

実はこれから東京へ戻り、あるセミナーで「アジア紅茶の旅」という話をすることになっていた。まあ、話のタネにと思い、飲んでみると意外とおいしい。そこに売っていた箱を1つ買う。結構高かったのでビックリ。まあ、茶工場のアレンジやら、食事代やら考えれば、このお店に貢献するのもよいかという気分になる。

後日このお茶をセミナーで提供した所、少なからぬ反響があり、また驚いた。「安化と言えば黒茶、紅茶など誰も知らない」「安化紅茶を飲んでみたい、取り扱いたい」との話もあったようだ。日本人の新しい物好きか。

安化紅茶の資料は少ないが、調べてみると「1915年のパナマ運河開設記念万博(開催地はサンフランシスコ)で祁門紅茶と並び、金賞を受賞した」とある。何と歴史的な紅茶だったのだが、今では完全に忘れ去られ、ほぼ全量がヨーロッパに輸出されているとの説明を受ける。ごく一部の愛飲家ののどを潤すだけとなっているようだ。これも貴重な茶との出会いである。

益陽茶廠

一旦ホテルに戻り、休息。2時半に再度お店へ行くと、何だか雰囲気が少し変。奥さんが申し訳なさそうに「実は急用が出来たので、一緒に工場に行けなくなった。あんた、一人で行って」という。一人で行くのは良いが、場所はどこでだれと会えばよいかと聞くと「工場はタクシー運転手なら誰でも知っているから問題ない。会う相手は私も知らないので、工場で聞いてくれ」という。

中国ではこういうことはよくある。決して相手に悪気はない。だが、振られた方はそれを無理難題と感じるだろう。その時の私もそうだった。それでもご縁で旅をする私、取り敢えず行ってみようと表へ出てタクシーを停めて「益陽茶廠」と言ってみたが、運転手は「それ何処にあるんだ?」とのっけから座礁した。結局タクシーの中から店の看板に書かれた電話番号に電話し、奥さんから運転手に行き先を告げてもらった。やれ、やれ、こういう所は中国的いい加減さ。

タクシーは街中を抜け、益陽郊外へ出た。そこには工場団地がある。そして何とその工業団地の一つの工場の前で停まる。ここだ、降りろ、と言われ、門の守衛さんに「工場見学に来た者ですが」と言ってみたが、「誰を訪ねて来たんだ」とつっけんどんにかわされる。こうなることも何となく想定内。

あーだ、コーダ、言っている内に守衛もどこかへ連絡を取り、ビルを指してあそこへ行けという。ビルに入っても受け付けも何もない、途方にくれ、適当なオフィスに入って聞くと、「それなら4階かも」と言われ、何とか辿り着いた。今は株式制に移行したようだが、如何にも国営体質。どう見ても客より工場の方が偉い。   

それでも広報担当の女性はにこやかに工場の歴史を説明してくれ、概要を掴む。元々は安化にあった工場を1958年に益陽に移転。当時は何もなかったが、今では工業団地の中に入ってしまった。国営工場として、主に辺境茶の生産に注力、文革中でも生産を止めなかった。現在でも辺境茶のシェアは約25%で全国一。新疆を始め、青海、チベット、内モンゴルなどへ納入している。2010年の上海万博ではブースを出し、宣伝活動に務め、北京や上海でもブームを起こそうとしている。2005年に株式制に移行、工場に勤務していた人々が株を持ち合っている。従業員325人。殆どが地元の人間だ。2008年には国家非物質遺産に登録され、「茯砖茶」の加工技術は国家機密に認定されているため、工場見学が原則禁止となっている。

そして同じ建物の中にある博物館に行く。ここでは技術責任者が案内してくれた。湖南省の黒茶の歴史は500年あまりあるが、従来茶葉を作るだけで加工は陝西省あたりで行われてきた。1939年に加工技術が導入され、新たな歴史が始まったようだ。だが国営工場であり、国の指示でレンガ茶を作って来たこの工場は、最近になり漸く儲かる茶業を模索しているという。千両茶の生産も復活させるとか。

帰りはタクシーもなく、歩いて行く。途中でバスも走っていたが、1時間掛けてホテルへ戻る。夕飯は面倒なので一人でホテル内レストランへ。ところが何と個室しかないのか、一人で部屋を占拠する羽目に。これもまた面白い。ウエートレスも愛想がよく、本当に心地よいホテルだ、ここは。

10月16日(火)  益陽を離れる

本日は午後の便で長沙から上海へ行くことになっている。先ずは益陽から長沙までバスに乗り、長沙市内からまたバスを乗り継いで空港へ向かう計画を立てた。

居心地の良かったホテルと別れ、タクシーに乗り込む。長沙行きのバスは東ターミナル。30分に一本は出ている。雨が強くなってきて、何だか気持ちが乗らない。バスは大雨の中、1時間ほどで長沙西へ到着。雨に濡れながら、市内行きのバスを探すがなかなか適当なのが見付からない。

取り敢えずトイレにでも行こうかと、長距離バスの建物に入る。何故か荷物検査を経ないとトイレに行けない構造になっていた。ふと見ると、「空港行き」という表示があった。そうか、ここから市内へ行かずに直接空港へ行くルートがあったんだ。言われた場所へ行くと今にも出発しそうなバスがあり、それが空港行きだった。あっと言う間に空港に着いてしまった。

私の乗る飛行機の出発まで3時間以上あった。他に飛行機に振り替えることも出来ずに、喫茶店で軽食を食べながら、ネットをして過ごす。私の黒茶の旅は足早に、そして満足できる内容で終了してしまった。




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