ダージリンお茶散歩2011(2)マカイバリ 美しき茶園と茶摘み娘

10月10日(月)  美しき茶園

翌朝は晴天。思ったより暑い。朝5時には鶏が鳴き、5時半には家族が起床。釣られて私も起床。庭には鶏やヒヨコが歩いており、近所の家でも洗濯などが始まる。実に生活感がある。朝ごはんはパサンが作ってくれる。シェルパは食事作りが仕事の一つ。

9時にパサンに連れられて工場へ行く。先ずはここの4代目茶園主、ラジャ・バナジー氏に挨拶に行く。彼が今回のキーパーソンであり、いきなり会えたのはラッキー。ところが今回の来訪目的を述べたその時、彼の携帯が鳴り、中国人グループの来訪が告げられた。話は5分で中断されてしまう。そして私はパサンに連れられ、茶園見学へと向かう。何だかちょっと残念。たった5分の対面だったが、なかなか面白い人物との印象を受ける。

次にベルギー人の男女3人も同行し、近くの茶園へ降りていく。彼らは実に自由に旅をしており、気に入った場所に長く泊まり、動いて行く。一人は女性でインド、ネパール、タイなど半年旅行を続ける予定とか。確かに気分次第で動いて行く旅が結局は自分の為でもあり、また安上がりなのだろう。旅の仕方を考えさせられた。

急な坂を下り、茶園に入る。パサンは慣れているのでお構いなしにどんどん進む。着いて行くのが大変。茶木がそこここに自由に植えられているのが印象的。また蝶や虫、クモなどが沢山いるので、化学肥料は使われていない様子がうかがわれる。

かなりの霧が掛かっていたが、晴れて来た。向こうの山を見ると山肌の色が違う。どうやら向こう側では化学肥料が使われているらしい。こちら側には木があり、草があり、花が咲いているのでよく分かる。茶園の急斜面では所々で茶摘みが行われており、その大変さは坂を下っている我々にはよく分かる。

実はこのグループには8歳の少年が同行している。彼はちゃんと水を持ってきており、全員に配ってくれた。少年はベルギー人の担当。彼らの会話を聞いていると父親を亡くしており、その代わりを務めているらしい。今日は学校が休みなので同行したのだろうが、既に彼はガイドの訓練を始めている。この地域の厳しさと暖かさを少し垣間見た。

パサンは何かに憑かれたかのように、坂を下る。何か目的地があるのだろうか。相当下った所に小屋があり、中を見ると何と赤ちゃんがゆりかごに入れられて寝ていた。ベビーシッター役にお婆さんが面倒を見ていた。仕事中に子供を預けられるシステムが存在することも分かる。

8歳の少年はどこかに使いに出された。暫くすると一人の青年を伴ってきた。青年は隣の小屋のカギを開け、中を見せる。そこは紙工場であった。どうやらベルギー人が希望して見学するようだ。よく見ると茶の外箱に使う紙も作っている。ここはマカイバリ茶園に必要な紙を作っており、余った物で観光用にはがきやノートも作成していると言うことだ。必要な物は自前で作る、これも面白い発想だ。

 

茶摘み女性の明るさ

午前中は相当に歩いた、特に最後に家へ帰るための上りがきつかった。思わず、ベットに転がり込む。そして昼食を取ると眠気も増す。ところが既に午後の部が始まろうとしている。午後は何と茶摘みを体験しようと言うのだ。ベルギー人の男女がやって来て、「ギブアップ」と言って帰っていった。私一人になった。

パサンは籠を背に、ロープを頭にして、茶園に向かう。摘んだ茶葉を持ち帰るつもりか。それでは茶園から文句が出よう。どうなっているのか。先程歩いた道を下るとすぐに茶摘みをしている人々に出会う。パサンはスーパーバイザーに声を掛ける。そして私に向こうの方を指して、「あっちのスーパーバイザーは英語が出来るから行け」と言う。そして彼自身は何と草刈りに更に降りて行ってしまった。

取り残された私は仕方なく、指さされた方角へ。しかしそこには道はなく、茶畑を突っ切る。これが意外と大変。何度も躓きそうになりながら、喘ぐようにして行く。ようやく到着すると、何だか皆笑っている。聞けば「あんたは顔がネパール人そっくり。それなのに茶畑の歩き方がなっていない」と言う。そこに居た5人の茶摘み娘はどっと笑いだす。思わず苦笑。

スーパーバイザーは工場の方で21年勤めた後、6年前からこの仕事をしているベテラン。右手に傘を持っているだけの身軽ないでたち。「個人的にはセカンドフラッシュが美味いと思うが、今年の秋茶もいいよ」と言いながら、茶葉の摘み方を教えてくれる。

女性たちの手つきを見ていると実に素早い。ある高さ以上に成長している緑の茶葉を尽く、一瞬にしてむしり取る感じ。茶葉が両手一杯になると背中の籠へ上手く放り投げる。これは簡単なようでなかなかできない。龍井の茶摘みのように芽の部分だけを摘むのではなく、凍頂烏龍の里で見た根こそぎ摘んでいくパターンだ。

5人は思い思いの場所で摘んでは移動する。恐らく一定の法則があるのだろうが、実に自由に見える。スーパーバイザーは時々、摘み切れていない茶木の方に歩き、その木だけ摘む。そして近くの女性の籠に放り込む。女性は礼を言うでもなく、自分の手を動かす。

結構な重労働だが、女性たちは実に明るい。常におしゃべりしている。今日はドルガプージャのお祭り休み明け初日、話題は殆どがお祭りらしい。誰かがしゃべり、誰かが応え、そして笑う。スーパーバイザーも「話すなと言ったら、仕事にならないよ」と諦め顔。彼女らはこの周辺、またはダージリン地区からやって来る。午前中は比較的高齢者が多かったが、今回はかなり若い子もいて、後継者不足の心配はなさそう。

茶園には山羊がいて、草を一生懸命食べている。除草の代わりに飼っているのだろう。確かタイの工場で金融危機の時、山羊を飼って除草をした話を聞いたことがある。それにしても貪るように食べている所を見ると、食事が与えられていないのだろうか。何とも可愛らしい。

1時間半ほど、眺め、そして偶に手を動かしていたら、作業終了時間となる。4時前には終わるらしい。皆帰り支度をして、茶葉で一杯になった籠を背負い、急な坂を上がっていく。これは大変な作業だが、これまた明るく振舞っている。古来女性は強いと言うことか。工場まで持って行き、そこで担当の計量を受け、今日の作業は終了した。

工場まで茶葉を運ぶとそこには秤があり、お姐さんが一人、全員の摘んだ茶葉を計量してノートに付けていた。これで給与が決まるのだろう。終わると三々五々帰って行った。その後ろ姿は流石にちょっと疲れて見えた。パサンはとうとうやって来なかったが、一人で帰ることに問題はなかった。

その日の夜パサンは焼きそばを作った。味付けは濃かったが、まさに焼きそば。しかも名前はチャウメンだ。中国から入った食べ物と思われる。スープはラダックと同じ懐かしい味がした。疲れもあり、早々に就寝。

10月11日(火) 工場見学

翌朝はお茶工場見学。9時に集合して、例のベルギー人3人と4人でパサンの説明を受ける。今朝のマカイバリも濃い霧に包まれており、湿度が高い。茶畑の方はどうなんだろうか?工場の建屋はかなり古めかしい。背の高い平屋かと思ったが、中は2階建て。

先ずは昨日摘みんだ茶葉が大量に干されているレーンへ。特に乾燥機を入れている訳ではないので、かなり湿り気がある。ここは2階部分で、茶葉を床の穴から下へ落とす仕組み。下には機械があり、その中へすっぽり。ここまでは手作業で行われる。

下では揉捻機が3台、音を立てて動いていた。そして乾燥、振り分けへ。最後の袋詰めはやはり手。ここでは十数人が働いていたが、その中には初日の夜、荷物を運んでくれたダワもいた。彼の本業は製茶だったのか。

工場の隅には木箱に梱包された茶葉があった。見ると「Dust」と書かれており、かすである。これはティーバッグ用として出荷されるらしい。一級茶葉使用、というやつだ。勿論最高級茶も箱詰めされている。秤も錘を使って計る年代物。何だか雰囲気がいい。




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